『杉並区版エコスクール事業の推進について、いじめから子どもの命と権利を守る取組みについて』
私は、生活者ネット・みどりの未来の一員として、杉並区版エコスクールの推進について、いじめから子どもの命と権利を守る取組みについて、以上2点質問いたします。
まず杉並区版エコスクールの推進についてです。ここでわざわざ「杉並区版」としているのには理由があります。後でも述べますが、杉並区独自の事業としての「エコスクール事業」について評価する立場から、基本的にこれを推進していただきたいという趣旨での質問であることを、最初に申し添えておきます。
でははじめに、エコスクールの前提となる区の環境政策に関して質問いたします。区の施策体系の最高位にあたる基本構想が今年3月に策定され、環境に関しては「持続的発展が可能なまちづくり」「自然環境と人との共存」「環境に関する自発的な行動」などが将来像として描かれています。環境基本計画はただいま改訂の作業中ですが、並行して地域エネルギービジョンの策定作業も進めるなど、杉並区の環境政策にかける意気込みは、決して他に引けを取るものではないと思います。ただ、それにしては田中区長が就任されて以来、ご自身の環境問題に対するメッセージはあまり伝わってきません。最初の質問として、環境先進都市を標榜する杉並区のリーダーとしての、地球環境問題についての区長の認識をおうかがいします。
環境教育の基本認識についてもうかがっておきます。総合計画でうたわれている「環境を大切にする生活スタイルの推進」を実現するには、区民への啓発や学校教育・社会教育との連携が欠かせません。区の教育方針で示される必要がありますが、教育ビジョン2012の「目指す人間像」の項目で「育みたい力」に示された「持続可能な社会を目指し、次代を共に支えていく力」はこれに呼応していると思います。区の環境教育およびエコスクール事業はこの力を育てるものととらえますが、この認識でよいでしょうか。区の環境教育に対する基本認識について、教育長の見解をうかがいます。
さて環境政策と環境教育の基本を押さえたところで、「エコスクール」という概念がどこでどう始まったのか確認しておきたいと思います。
「エコスクール」の概念は、そもそもはヨーロッパで先行して提唱されています。日本では1996年に文部科学省、農林水産省、経済産業省、環境省の4省庁の協力により研究者会議が設置され、出された「環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備推進について」という報告書が、国の政策に初めて登場した場面だったようです。国は翌年、「エコスクール・パイロットモデル事業」を文科省、農水省、経産省、国交省の4者の連携でスタートさせ、一方、環境省はエコスクールとは別に2003年に「エコフロー」というプロジェクトを文科省、農水省、経産省との連携でおこし、いまに至っています。
杉並区では、環境教育・環境配慮に対するさまざまな取組みを経て、山田前区長の「学校の普通教室にクーラーは設置しない」という政策を前提とし、学校施設における環境施策が進められてきました。2006年、庁内組織で検討された「風とみどりの施設づくり」が提案され、つづく2007年には学識経験者や建築家、学校関係者、環境団体なども交えた第1次エコスクール化検討懇談会が設置されて「環境共生型学校施設」整備が提案されました。これが実質上「杉並区版エコスクール」のスタート地点であり、その後、第2次エコスクール化検討懇談会における検討をへて出された報告書「杉並区版エコスクールの推進」の中で、「既存校におけるエコスクール化の推進」が述べられ、現在につづく「すべての学校をエコスクールに」という方針のベースになっている、と理解しています。
すなわち、建て替えにより環境配慮型の新しい設備を取り入れた校舎だけが「エコスクール」なのではなく、既存校をふくめて区内の全校がそれぞれに工夫を凝らした「エコスクール」であり、ハード面だけでなく環境教育、環境配慮行動をふくめて3つの柱が同時にすすめられることが「杉並区版エコスクール」の定義である、と理解しています。この認識でよいでしょうか、区の見解を確認しておきたいと思います。
さて、「杉並区版エコスクール」はその後、高井戸小、方南小、荻窪小、松渓中、天沼小の全面改築ないしは新設に伴い、クールヒートトレンチやナイトパージなど新しいシステムが導入されて注目を集める一方、既存校における「エコスクール化」も進められてきました。しかし新しいシステムは費用対効果や現場での管理・運営において課題が明らかになり、また、田中区長になって以降、「すべての普通学級にクーラーを設置する」という方針が打ち出されたこともあり、行政監査を受けて今年2012年、事業が見直されることになりました。ここに至るまでの、エコスクール事業の進捗状況について概要をお示しください。
また、今年5月に出された杉並区エコスクール事業検討委員会の報告書が示す方針転換について、その概要をお示しください。
杉並区版エコスクール事業は3つの柱が同時進行するのが特徴だとたびたび説明されてきています。ところが、実際にはハード面とソフト面が切り離され、また先に述べた行政監査で指摘されているように、ハード面だけみても既存校と改築・建設校で区の担当が異なるなど、事業自体を一体としてとらえられてこなかった感があるのは事実です。区においてエコスクール事業を担当する所管組織は何度か変更されてきましたが、今年4月の組織改正で学校整備課が新設されました。その意図と経緯について、おうかがいいたします。
環境に配慮した施設運営や管理の方法は、学校ごと、教室ごとに違うはずです。学校が立地する地域の状況や、校舎内の教室の位置、日照条件などをきめ細かく調査し、省エネ対策を立てるべきと考えます。環境省が作成した「エコ改修後の学校で快適に生活する運用ガイド作成のための手引き」などには、具体的メニューも掲載され参考になりそうです。建築や環境の専門家の協力を得て、学校ごと、教室ごとに省エネのための小改築や省エネ行動マニュアルを作成すべきと考えます。いかがでしょうか、うかがいます。
つづいて環境教育についておうかがいします。
杉並区の環境教育は、中学生環境サミットの活動などにみられるように、環境団体や地域住民の協力を得て行われてきています。ところが、学校施設の改築・改修や省エネ行動と有機的につながってきたとは必ずしもいえません。行政監査報告でも「エコスクール事業全体をコーディネートする部署が必要」と指摘されているように、事業の3つの柱を一体的に推進する体制を整備する必要があるのではないでしょうか。区の取組みについてうかがいます。
私はさらに、各学校でこの事業を進めるための体制として、教職員、児童生徒、保護者、地域住民、専門家、活動団体など関係者間の連携をはかり事業の効果を検証しつつマネージメントを行う、また、その学校での主体的な取り組みをサポートするコーディネートチームが必要だと考えています。参考にしたいのは荻窪小学校のケースです。荻窪小では、2008年、校舎のエコ改築の工事段階から人工環境や自然環境を生かした環境学習をスタートさせ、現在も地域の人たちや専門家との連携による自主的な取り組みが継続していますが、そのきっかけは地域団体のメンバーや建築系の専門家の協同での事業提案から始まりました。このようなつながりを生かしたチーム編成が望まれます。これは指摘にとどめておきます。
環境教育について最後にもう1点、ちょうど2年前の9月議会の一般質問で採り上げた、ESD「持続可能な発展のための教育」に関連して、おたずねいたします。ESDはEducation for Sustainable Developmentの略で、日本語訳は「持続可能な発展のための教育」または「持続可能な社会づくりのための教育」ともいわれます。
小学校で昨年、中学校では今年改訂された新学習指導要領では、環境教育における留意点として「持続可能な社会の構築」が挙げられました。これは、国際的なプロジェクトであるESD推進の動きともフィットします。区の施策体系においても、基本構想、教育ビジョンのいずれでも「持続可能」という言葉がキーワードとして使われており、方向性は一致します。
以上のようなことから、杉並区の環境教育を「ESD」という言葉で大きくとらえ直してみてはどうでしょうか。一昨年の一般質問での、当時の済美教育センター所長のご答弁では「杉並区としては従前より環境教育にも、国際理解教育にも力を入れ、ESDの考え方は十分反映させてきた」と述べられ、「あえてESDという言葉を使って再構築する必要はない」という趣旨の見解を示されています。しかし、何か別のジャンルとみなされがちな、人権教育や国際理解教育、伝統文化を学ぶ教育などが、実は、人と人、人と自然が協調しあいながら生きる持続的な社会を形成していくための関連した学習と捉えると、教科学習も含めた多様な学習が太い線で結ばれ、大きな教育目標を達成するための効果をあげると考えます。「ESD、持続可能な社会づくりのための教育」をそのためのキーワードとして共有化するべきではないのでしょうか。
すでに環境問題をはじめさまざまな教育課題に対し横断的に取り組んできている杉並区であれば、これをESDとしてとらえ直すことで、理解がより深まり、視点を整理して新たな価値観を共有することができると考えます。国連で採択された「ESDの10年」の最終年である2014年がすぐ間近に迫った今なお、杉並においてこの言葉自体の認知度が決して高いといえないのは残念なことです。
日々膨大な課題を抱えている学校現場への負担が小さくてすむように、教科学習やすでに実施されている総合的な学習・環境学習のプログラムを上手に組み合わせ活用するなど、工夫して進めることができるはずです。独自のエコスクール事業を推進する自治体として、ESDに積極的に取り組むべきと考えます。いまこそ、モデル校を設置してESDに取り組むべきではないでしょうか。見解をうかがって、次の質問に移ります。
つづいて「いじめから子どもの命と権利を守る取組みについて」です。
昨年10月、滋賀県大津市でいじめを受けていた中学2年生の男子生徒が自殺し、子どものいじめの問題が今また大きな社会問題としてクローズアップされています。つい昨日も、札幌で中学1年生がいじめを訴えるメモを残して亡くなっています。新学期が始まった直後の今の時期は、いじめを受けている子どもにとって不安がふくらむときです。まさに要注意時期といえます。
これまでにいったい何人の子どもたちがいじめによって自ら命を絶っていったでしょうか。もう2度とそのようなことは起きてほしくない、と痛切に思います。ついに文科省もこの事態を深刻に受け止め、国が主導して対策に取り組むための方針をまとめました。しかし私は、社会から犯罪を追放することができないように、学校のような閉じられた空間での集団生活の中でいじめは「なくすことができないもの」と認識するところから始めるべきだと思います。
ただし、それでも子どもの命と権利だけは大人の責任としてしっかり守る、そのためにすべきことを考えたいと思います。そしてできるだけ、いじめをおこさない知恵と工夫についても、あとで述べたいと思います。
まず、いじめの定義についてです。文科省は2006年1月、いじめの定義を変えました。それまでの「自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの」という定義から「子どもが一定の人間関係のある者から、心理的・物理的攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」と変更し、「いじめか否かの判断は、いじめられた子どもの立場に立って行うよう徹底させる」としました。いじめられる側により近くよりそったものになったと思いますが、区の認識はいかがでしょうか。うかがいます。
当区におけるいじめの認知件数、その経年変化をうかがいます。また、自殺の原因が疑われるなど深刻な状況を招いた事例はないか、警察がかかわったケースはあるのか、おうかがいします。一般に、小中学校のうちでは中学校が、特に中1にいじめが多いとされますが、当区の場合はいかがでしょうか。あわせてうかがいます。
いじめについて、区は実態を把握するためのアンケート調査を実施されておられるとのことです。その内容、方法など概要をお示しください。またその結果と、それに対する区の見解をうかがいます。
ところで文部科学省は、いじめをふくめて暴力行為、出席停止、不登校など問題行動全般について、毎年「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題」に関する全国調査を実施しています。公表されている直近の調査結果では、調査方法を改めた2006年度以降を見てみますと、2009年度までは認知件数が下降線をたどっていますが、2010年に小中高ともすべて増加しています。この数字をどう見るか、お考えをうかがいます。
同じく文科省調査についてです。「相談の状況」についての設問に対し、相談相手として学級担任をはじめとする学校関係者や保護者・家族が多く挙げられていますが、電話相談をふくむ学校以外の相談機関にアクセスしている状況が見てとれます。また小中とも「だれにも相談しない」のが約7%。しかし高校生は14%です。この数字は、年齢が上がると学校内の取り組みだけでは不十分であり、学校の外に子どもを支援する仕組みが求められることを表していると考えます。
実際、子ども専門の電話相談「チャイルドライン」には大津市の事件があって以来、いじめに関連する相談が増えたと聞きます。また今ごろの時期には、再開した学校生活に不安を訴える子どもの声が多く寄せられるのだそうです。行政が直接運営にかかわるホットラインとは違って、民間だからこそ子どもにとってアクセスしやすい面があります。けれども杉並区内にはまだ活動の拠点が持てず、区内の子どもがかける電話は他の区市で受電されている状況です。身近な地域で活動できるよう、区は支援すべきではないのでしょうか。これも昨年第1回定例会の一般質問でうかがったことですが、あらためてお聞きします。
さて、公の調査は重要ですが、子どものいじめに関しては数字に表れない部分が必ずあることを承知しておかなければなりません。いじめが認知されないからといって実際にいじめが存在しないとはいえず、むしろより注意深く子どもの状況を把握する必要があるのではないでしょうか。子どもがいきいきと生きる権利が保障されるために、いじめられたら逃げること、逃げる場所は必ずあることをメッセージとして伝える必要があります。身体を傷つける行為や、窃盗などの犯罪をそそのかす行為はそれ自体が犯罪であり、罰せられるべきであることを教育の場できちんと伝える必要があります。子どもを犯罪者にしないことは教育の使命です。区の見解をうかがいます。
杉並区ではスクールカウンセラーの全校配置に加えて学校司書が全校に配置されるなど、従来からの養護教諭もふくめて、いわゆる「先生」でない大人が校内に存在しています。またスクールソーシャルワーカーも導入され、区が教育と福祉の連携に努め実績を積んでこられていることを評価しています。いじめの対応には、これら教員以外の職員等もふくめてチームで連携する体制が求められます。区の見解はいかがでしょうか。おうかがいします。
学校でのいじめの情報が区に提供された場合、だれが、どのように活動するのか、実際の例を挙げて説明をお願いしたいと思います。保護者から「自分の子どもがいじめられている」という通報、また保護者ではない人から、「ある子がいじめられている」という情報提供があったとすると、だれが、どのように動いて解決に向かうのでしょうか。また「ある子どもがいじめに加担しているらしい」という場合はどうでしょうか。
いじめは、学校という閉ざされた空間でおこる必然だという論考にしばしば出会います。最近読んだ本では「閉鎖空間でベタベタすることを強制する」環境がいじめを生む、ということが書かれていました。競争をあおる成果主義や、みんな同じ色に染める全体主義を原因に挙げる主張にも、うなずけるものがあります。でももし学校が風通しのよいところで、子どもが自他ともに尊重しあえる空間だったら、いじめは起こりにくいのではないでしょうか。
そのような意味で、予防策として効果的と思われるものに、「構成的グループエンカウンター(SGE)」というプログラムがあります。本音を表現し合い、それを互いに認め合う体験を通して関係を築くことができるようになり、いじめを生じさせない学級・学校づくりに効果があると評価を受けています。
杉並区でも、中瀬中学ではこのプログラムに精通した校長の指導のもと、2008年から2009年度にかけ教育課題研究指定校として、「豊かな心を育む教育プログラムの開発」と題した構成的グループエンカウンターに取り組みました。取組みはその後も継続し、生徒間、生徒と教職員との間、さらには保護者同士の良好なコミュニケーションを生み出す効果をあげていると聞いています。人が互いを尊重しあえるためには、まず自分自身と互いを知ること、違いを認めることが重要ですが、このプログラムがそのために有効であるならば、この実践を他校にも広く展開されてはいかがかと思います。お考えをうかがいます。
最後に、いじめだけでなく子どもの権利が侵害されたときの擁護のしくみとして、オンブズマンに関しておたずねします。
兵庫県川西市や川崎市では、子どもの権利を救済するしくみとして子どものためのオンブズマン制度をもっています。国連子どもの権利条約に照らして子どもの人権を尊重する立場から、問題解決のための活動を行う担当者をオンブズパーソンと呼んで行政に位置づけています。
川西市の場合は1998年「子どもの人権オンブズパーソン条例」を定め、オンブズパーソンを「子どもの利益の擁護者・代弁者」「公的良心の喚起者」と規定しています。職務としては「子どもの人権侵害の救済に関すること」「子どもの人権の擁護と人権侵害の防止に関すること」「それらのために必要な制度の改善などを市長などに提言すること」の3点を挙げ、調査権や指導権が与えられているばかりか、市の機関、たとえば教育委員会に対してさえ、制度の改善を申し入れすることもできます。つまり、公的第三者機関として大きな権限が保障されているのです。現在は心理や教育の専門家、弁護士など3人が市長の任命を受けて活動しています。
子どもの権利擁護のための第三者機関は、国連子どもの権利委員会から日本政府に対し設置を勧告されています。にもかかわらず、日本ではまだ広がっていない現状ですが、ヨーロッパ各国では一般的な制度です。杉並区でもオンブズマン設置を検討すべきではないのでしょうか。見解をおうかがいして、私の質問を終わります。