第3回定例会一般質問 2018.9.13奥田雅子

いのち・平和クラブの一員として、ケアラ―支援の取組について質問いたします。

「ケアラー」というのは在宅で家族のケアを担当する人、すなわち介護を担っている人のことを言います。介護者というと一般的に高齢者介護のことを指す場合が多いのですが、家族介護を担う人の状況はさまざまです。家族が高齢である場合だけでなく、病気、障害、事故の後遺症、薬物やアルコール中毒、引きこもりなどの理由によりケアが必要となったとき、それを家族のだれかが担当することになります。育児も家族ケアのひとつと言えます。ふつう、高齢者は介護、障がい者は介助、傷病者は看病・看護という具合に呼称が違っていますが、私はこの間、ケアラー支援の活動に取り組む団体の勉強会に参加する中で、家族介護者全体に共通する問題があることに気づかされました。

介護の対象がどんな場合であれ、家庭という狭い世界の中で困難を抱えている家族介護者の問題を、基礎自治体は人の尊厳にかかわる問題としてとらえる必要があると考え、今回の質問にあたり「ケアラー」という言葉を意識的に使うことにしようと思います。

2000年の介護保険制度導入から18年が経過し、この間、高齢化の一層の進展により、介護保険制度は改定のたびに財政の見直しを迫られ、利用者負担の増大を余儀なくされてきました。介護の社会化をめざして始まった保険制度ですが、いま再び家族ケアラーの負担が大きくなっています。

しかし、世帯構造は大きく変化しており、厚労省の2016年調査によると65歳以上の「単独世帯」「夫婦のみ世帯」の割合は2016年には約6割にまで高まっています。さらに、「親と未婚の子のみ の世帯」の割合も2001年15.7%から2016年には20.7%と1.3倍になっています。

主たるケアラ―の7割以上が家族で、高齢化も進んでいます。2001年と2016年の比較では、65歳以上同士は40.8%から54.7%に、75歳以上同士は18.7%から30.2%になっており、ケアラー自身の体力も低下し十分な介護はできない状況です。

厚労省の「2015年度介護保険事業状況報告」および総務省の「2016年社会生活基本調査」によると、2016年の要介護者数は約620万人でこの15年間で約2.4倍。それに伴い家族ケアラーも2016年には約700万人と1.5倍に増加し、年代は30代以下が全体の約1割、40・50代が約4割、60代以上が約半数を占めており、男性のケアラーも約4割と増加傾向にあります。総務省の2012年調査では、介護離職も年間約10万人と言われています。

また、子育てと介護を同時に担ういわゆる「ダブルケア」の推計人口は2012年で約25万人(女性約17万人・男性約8万人)で、平均年齢は男女とも40歳前後と平均に比べ若く、女性の約半数が仕事をしていることが、内閣府の2016年の調査報告書で明らかにされています。また、ダブルケアには子育てと介護以外にも両親同時介護や障がい者と高齢者の介護など1つの家庭で複数の介護を担っている現状があります。

他にも、8050問題や10~30代のヤングケアラー問題、介護離職後の再就職の問題など、ケアラーを取り巻く問題は多々あり、いずれも健康や経済状況の悪化、社会的孤立などを引き起こす原因となっています。個々のケアラーへの対応だけでは解決しきれず、ケアラー全体にかかわる社会の問題として捉えることが必要です。地域包括ケアシステムにケアラー支援は欠かせないものであり、区における現在の介護者支援事業がこれまでのままでよいのか、もっと掘り下げた検討が必要ではないかと考えます。

そこで、まず、杉並区の現状について伺います。

Q1. 杉並区の介護者支援事業には多様なメニューがありますが、具体的にどのようなものがあるのかお示しください。また、これらの導入目的についてお聞きします。

Q2. 個々の介護者支援事業について伺いますが、

緊急ショートステイについて、介護している家族が病気やけが、葬儀などの緊急時に使えるサービスだと認識しています。しかし、利用手続きとして事前に利用申請書や日常生活動作調査票、ケアプランなどを区の窓口に提出することが必須となっています。介護している家族が病気やけがの場合はわざわざ区の窓口にまで出向いて申請することは難しいと思いますが、そのような場合はどうしているのか。また、申請はたとえば近所の人のような家族以外の第3者でも可能なのか確認します。

Q3. 緊急ショートの利用者からは手続きについて改善の声は届いていないのか。緊急故にもっとスムーズに利用できることが必要だと考えますが、区の見解をお聞きします。

Q4. 次に認知症高齢者安らぎ支援について、認知症高齢者の介護をしている家族の休息のため、研修を受けた安らぎ支援員を派遣し、家族や認知症高齢者の話相手をするというものと認識しています。これは介護者の会などに行きたくてもいけないケアラ―支援という側面もあると思いますが、利用実績があまり多くないようです。杉並区でも家を空けられないケアラ―のお宅に、「ケア友」と称する介護者サポーターが複数で訪問するという、「ミニカフェ」をデリバリーする取組がケアラ―支援団体によって行われています。ケアラー側の負担にならないよう訪問する側が飲み物やお菓子を持参し、茶話会のような雰囲気の中で様々な話題に広がり、結果としてケアラ―のエンパワーメントにつながっていると聞きました。このような取り組みを区のしくみに取り入れてはどうか、区の見解をお聞きします。

Q5. 次に介護者心の相談ですが、臨床心理士と共に介護者が心の葛藤を整理・相談ができるメニューとして好評だと聞いていますが、決まった期間が終了した後のフォローができる場につなぐことが必要だと考えます。区内でケアラー支援に取り組むケアラーズカフェの運営事業者から、心の相談を担っている臨床心理士からケアラーズカフェに繋がってくる事例があるということを聞きました。相談者が地域とつながるという意味では重要な視点だと思いますが、どの臨床心理士も同じような対応がなされているのか、伺います。

Q6. 杉並区は早くから介護者支援に取り組んできたことを評価していますが、家族ケアラー支援の仕組みの中で課題はないのか。区の認識を伺います。

ケアラー支援団体が行ったインタビュー調査では、「介護に追われていても、社会・近隣とのつながりを維持したい」とか「学業・仕事・キャリア形成にも皆と同じように挑戦したい」「心と体が壊れる前に助けてほしい」「生活保護を受けずに暮らすため社会復帰の支援が欲しい」「介護される側だけでなく、する側にも社会的な権利を認めてほしい」など切実な声が寄せられています。そして、「気軽に休息がとれる機会」や「ケアラー自身が急病などの時の対応」さらには経済的支援策として「在宅介護手当」や「年金受給要件に介護期間を考慮する」と言った要望も高いようです。

Q7. 特にケアラーは自分のことはついつい後回しにしてしまいがちで、大事に至る前の予兆や緊急性をキャッチするために家族ケアラーの健康調査も必要ではないでしょうか。要介護者の支援に入る際にケアラーの状況にも目配りでき、必要な支援につなげられる家族ケアラー支援専門員のような人材の配置やアセスメントについて検討すべきと考えますが、いかがか、区の見解を伺います。

次に、昨今、関心が高まっている「ヤングケアラー」「ダブルケアラー」「介護離職」について考えていきます。

「ヤングケアラー」とは家族にケアを要する人がいて、家事や家族の世話などを行っている18歳未満の子どものことですが、ここでは30歳代くらいまでを含めた若者のケアラ―について考えます。慢性的な病気や障害、精神的な問題などのために、家族の誰かがケアを必要とし、そのケアを支える人がいない場合、未成年の子どもであっても大人が担うようなケア責任を引き受けざるを得ない状況が生じています。

成蹊大学准教授の渋谷智子(ともこ)さんの著書『ヤングケアラー』では、世界に先駆けてイギリスが1980年代末から実態調査やヤングケアラー支援を行なってきた事例が紹介されています。一方日本では、総務省が2012年に行った調査では15~29歳の介護者の数として17万7600人という数が挙げられていますが、子どもや若者が家族のケアを担うケースへの認識自体、まだ十分に広まっていないと述べています。2025年には団塊世代が75歳を迎え「大介護時代」が到来すると言われる日本社会で、施設は重度の高齢者を中心に受け入れ、基本的には在宅福祉を充実させる方向性のもと、家族ケアラーの負担が増大していき、世帯人数の縮小、共働きやひとり親世帯などであればなおさら、大人も余裕がなくなり、若者や子どもまで介護やケアに動員されるケースは今後ますます増えると指摘しています。

同書ではまた、2015年に南魚沼市、2016年に藤沢市が市の教育委員会の協力のもと、市内の公立小中学校・特別支援学校のすべての教職員を対象に行ったアンケート調査に触れています。両市とも6割の教職員から回答が寄せられ、南魚沼市では25.1%、藤沢市では48.6%の教職員が家族のケアをしているのではないかと感じた子どもがいたと回答しています。藤沢市の数字が高い背景には、アンケート調査に先立って市の学校関係者の間でヤングケアラーに関する情報がある程度共有されていたこと、また、外国に繋がりのある子どもが多くみられるこの地域において、先生たちが困りごとに直面している子どもにきめ細かに対応する「支援教育」の考え方が根付いていたためではないかと推測しています。いずれにしても、小中学生の中にも家族の介護を手伝いではなく主体的に関わっている子どもたちが少なからずいるということが明らかになりました。世田谷区においては高齢福祉課が2014年に区内の居宅介護支援事業所223ヶ所に対しヤングケアラー実態調査を実施しています。73.5%からの回答があり、36事業所からヤングケアラーの存在があるという回答がありました。その内、10代の介護者9名、20代の介護者51名の存在が明らかになりました。いずれの調査からもヤングケアラーの課題として、介護に対する情報不足や相談先がわからないことや就労支援や仕事と介護の両立ができる仕組みがないこと、介護技術や家事スキルがない、ヤングケアラー同士で情報交換や交流できる場が欲しいなどがあり、必要な支援がきちんと届いていない実態が浮き彫りとなりました。この問題は2016年の予算特別委員会でも生活者ネットワークの曽根文子がヤングケアラ―について取り上げていますが、改めて質問をいたします。

Q8. 近隣の世田谷区でもヤングケアラーの存在があることが分かりました。杉並区においても少なからずヤングケアラーは存在していると考えますが、区はこのヤングケアラー問題についてどのような認識をもっているか、お聞きします。、

Q9. ひとり親や精神疾患の親を持つ子どもの場合が多い傾向にありますが、ヤングケアラーは遅刻や早退、欠席、忘れ物、宿題をしてこない、衛生面や栄養面が思わしくない、部活などの課外活動ができないなど、子どもの学校生活への影響が顕著となっています。このような子どもがいた場合、学校はどのような対応をしているのか確認します。

ヤングケアラーはケアを担うことで、自分の学習、心身の健康、生活全般に影響がおよび、将来の選択が大きく変わってくることもあり、これは「子どもの人権」に係る問題です。ヤングケアラーが子どもとして普通に過ごせるための配慮は家庭や学校だけでなく、社会全体で早急に取り組むべき事柄だと考えます。

10代から20代後半まで祖母を介護した元ヤングケアラーは「僕は祖母の介護とひきかえに、友達、学業、仕事、そして時間を失った。本当は自分を理解してくれる人がほしかった。誰か助けてと叫びたかった。看取ったあと、周りからは「おばあちゃんは孫に介護してもらって幸せだったね」と言われたが、僕が本当に欲しかったのは、僕と祖母の幸せが両立できる生活だった」とインタビュー調査に応えています。周りの大人は何をしていたのかと怒りさえ覚えますが、こういう子どもをひとりもつくってはならないと思います。

Q10. 区でも子どもたちに一番身近に接する小中学校の教職員やSSWに対して、ヤングケアラーの存在を前提にした内容を研修に盛り込むことも必要と考えますがいかがか。また、その上で実態把握に努めるべきと考えるがいかがか、区の見解をお聞きします。

次に「ダブルケアラー」についてお聞きします。

晩婚化、晩産化、少子高齢社会、家庭の小規模化などが要因となり、異なるニーズを同時に満たすことを要求されることや、制度が縦割り故、複合化するケア課題にスピーディに対応できない、働き続けることが困難などの問題があります。

Q11. 杉並区におけるダブルケアの実態についてはどのような認識でしょうか。今年度、在宅医療・生活支援センターが開設し、そのような問題に取り組んだ実績はあるか。ある場合、どのような対応がなされたのかお聞きします。

Q12. 京都府の女性活躍・ワーク・ライフ・バランス推進担当が「仕事と子育て-両立支援ガイドブック」を作成し、ダブルケアをしながら仕事を続けていくために必要な情報が分野横断的にまとめられています。区においても分野を超えた情報を一元化した媒体が必要ではないかと考えますが、見解をお聞きします。

次に「介護離職」についてですが、2012年に民間のシンクタンクが行った「介護と仕事の両立支援に関する実態把握のための調査研究」によると、自分の意思で介護に専念したのは4割。無職の人の内、就業希望している人は40歳代で8割弱、50歳代で約5割、60歳代で約3割。本当はやめたくなかったという本音や仕事を辞めて介護に専念することで、かえって精神面、肉体面、経済面の負担が増したということが見えてきました。また、勤務先の「仕事と介護の両立支援制度」を利用していない人が5割前後もあり、勤務先に相談した人は約1割しかいません。

一方、企業の取組みでは介護をしている従業員を把握しているのは51.7%、両立支援制度の開始時に面談をしているのは32.6%、逆に両立支援制度を促すことなどを何もしていない、が30.1%、介護保険制度に関する情報を提供している、が18.8%、提供していない、が67.9%となっています。

ケアラーが望む職場の支援は残業をなくす・減らすこと、出社退社時刻を自分の都合で変えられることにあります。

働くケアラーの声を紹介すると「経済的に困窮することが介護者のもっとも恐れていること。欧米のようにケアラーへの給付がほしい。これだけ介護離職が続く原因は仕事との両立が無理だからである。看てもらっている人の人権はあるが、ケアラーの人権がないのが今の日本の介護制度である。また、介護が終わったケアラーへの社会復帰の道筋も制度としてつくるべき」と語っており、問題を端的に表しています。介護離職防止という視点での取組みについては、企業、自治体ともに遅れていると言わなければなりません。

2016年6月の閣議決定「ニッポン一億総活躍プラン」では介護離職ゼロの実現が掲げられ、第7期介護保険事業計画に向けた基本指針案では「介護に取り組む家族等への支援の充実」が新設されました。

また、「就労継続や負担軽減の必要性」「必要な介護サービスの確保、家族の柔軟な働き方の確保、相談・支援体制の強化」も示されました。

今年3月には厚労省から「家族介護者支援マニュアル」が発行され、これからの家族介護者支援施策のめざす方向性として、

家族介護者を「要介護者の家族介護力」として支援するだけでなく、「家族介護者の生活・人生」の質の向上に対しても支援する視点をもち、要介護者と共に家族介護者にも同等に相談支援の対象として関わり、共に自分らしい人生や安心した生活を送れるよう、地域包括支援センターの事業主体である市町村はもちろん、多機関専門職等と連携を図って、家族介護者にまで視野を広げ、相談支援活動に取り組むという視点を地域包括支援センターの事業に活かすこと求めています。

このように国も家族介護者支援を強化していく方向を打ち出しています。

Q13.この家族介護者支援マニュアルでは「介護者本人の人生の支援」というサブタイトルが入ったことは画期的です。区は、このマニュアルをどのように受け止め、活用していこうと考えているのか、お聞きします

最後に市民によるケアラー支援についてお聞きします。

地域の中ではケアラーズカフェや介護者の会などが少しずつ広がりを見せています。この杉並区において、介護保険制度導入後早い段階から孤立しがちな介護者を地域につなげるために、介護者サポーター養成が行われ、そのサポーターと家族ケアラーで介護者の会をつくってきました。また、ケアラーズカフェでは男性ケアラーやヤングケアラーなど同じ立場の者同士でつながり合う取り組みなども実施されています。ケアラーは信頼できるスタッフがいて困っていることを気軽に相談でき、新しい情報が手に入る場を求めています。一方、サロンやカフェに関わったスタッフは、様々な立場のケアラーの話を聞くことで、多様な暮らしへの理解が深まり、ケアラーへの支援が必要であることを地域や社会に発信できたこと、そして活動を通して新しい友人・知人が増えた、と感じています。今後、介護者サロンやカフェが地域で継続的に運営されていくために安定した開催場所の確保やスタッフの研修、広報活動などを行政や地域包括支援センターなどとも連携して作っていくことが必要です。

今後、困難を抱えるケアラーがますます増えると予想されますが、制度や行政サービスだけでは支え切れない部分には地域の力が必要です。身近な地域の中における拠点づくりは地域包括ケアシステムを定着していくための要になる取組みです。場と人、情報が交差し、お互いに支え合える地域づくりが重要であることを常々私は訴えてきました。今回はケアラー支援に焦点を当てて質問してきましたが、区内にはケアラー支援のほかにも子ども食堂や学習支援、緩やかな居場所・サロンなど様々な切り口での地域の拠点が存在しており、それぞれが連携し、重要な地域資源として役割を果たしていくための仕掛けが必要ではないかと考えています。

そこでお聞きします。

Q14.現在ある多様な区民主体の活動・事業について区はどの程度把握しているのか。どの相談窓口に行っても、多様な地域資源とつなぐという意識は重要です。区と共に地域づくりのパートナーとして連携、支援していくことに対する区の見解をお聞きします。

Q15.また、これらの区民発の活動・事業などが継続していくための支援も必要であり、具体的に区が行える支援方法にどのようなことがあるのかお聞きします。

ケアラ―の早期発見・早期支援・継続支援が重要なカギです。ケアラーを孤立させない、追い詰めない仕組みや制度をどう作るか、区の姿勢が問われています。ケアラー問題は社会的損失にもつながることでもあり、ケアラーを取り巻く問題を総合的にとらえ、対策を打って行くことが必要です。

要介護者にはケアプランがあるように、ケアラ―にはライフプランが必要です。ケアラーの心身の健康を守り、ケアラーと地域をつなぎ、情報を提供するツールとして開発された「ケアラー手帳」を取り入れていくことも一案かと思います。

ケアされる人の支援法は介護保険法、老人福祉法、高齢者虐待防止法、障がい者総合支援法などありますが、ケアする人の支援法はないのが現状です。今後、ケアラー支援を社会問題として解決するにはケアラー支援法や自治体独自の条例づくりも必要ではないかと考えるところです..

そこで、最後の質問です。

Q16.ケアラ―が健康でその人らしい生活が送れるように、ケアラ―支援のあり方を当事者も交えて分野横断的に議論していくことが求められていると思いますが、区の考えや今後の展望についてお聞きして、私の一般質問を終わります。

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