第4回定例会一般質問 2021.11.16 奥田雅子

いのち・平和クラブの一員として、生物多様性の観点からまちをつくる取組みについて質問します。

杉並区がこれまで、環境分野に限らず行政の各分野において生物多様性に配慮した取り組みをすすめてこられたことは承知しているところです。それは望ましいあり方である一方、地球規模で俯瞰したときの多様な生物が生息することの意義や価値、またそれが私たちの暮らしにどうつながっているのか、大きな絵として全体像が見えてこないもどかしさも感じています。このたび「みどり豊かな住まいのみやこ」を掲げた新基本構想が策定されたのを機に、杉並区が改めて生物多様性に光を当てていただきたいとの思いから質問します。

生物多様性の保全について国際条約が 締結された1993年、日本もこれを批准し、国が最初に生物多様性国家戦略を策定したのが1995年。それから四半世紀が経過しましたが、地球規模ですすむ生物多様性と生態系の劣化は日本も例外なくレッドリストに掲載される絶滅危惧種も増え続けています。

この原因として、開発など人間活動による危機、里山などの手入れ不足による自然の質の低下、外来種の持ち込みによる生態系のかく乱、地球環境の変化があると言われています。これらは、SDGsの持続可能な開発目標とも重なります。SDGs17の目標の15番目には陸の豊かさも守ろうがあり、陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転並びに生物多様性損失の阻止をはかるとされており、生物多様性の保全の必要性はもはや疑う余地がありません。

国の生物多様性国家戦略はこれまで4回の見直しが行われました。そして2020年1月から2021年6月までの全9回にわたり次期生物多様性国家戦略研究会が開催され、2021年7月30日、目指すべき2050年の自然共生社会の姿と2030年までに取り組むべき事項について整理した提言として報告書がまとめられました。

この報告書では生物多様性条約の戦略計画に掲げられた2050年「自然との共生」ビジョンの達成に向けた道筋として、①点目に生存基盤となる多様で健全な生態系を保全・再生し、②点目に自然を活用した解決策や生態系を基盤とするアプローチの考え方を社会的課題への対処に全体的に取り入れながら自然の恵みを持続可能な形で積極的に活用すること、さらに③点目に生物多様性を主流化し、社会・経済・暮らしのあり方を自然共生に向けた社会変革が必要となるという3つのポイントが掲げられています。

 

一方、東京都も生物多様性地域戦略の位置づけとなっている「緑施策の新展開~生物多様性の保全に向けた基本戦略~」の改定に向けて2019年12月から検討会が開催されており、今年8月には都民、企業、市民団体、大学、関係自治体などからの意見募集にあたり、東京都における生物多様性の現状と課題、目指すべき将来像案などを整理したゼロドラフトを作成しています。

  • これらの生物多様性に関わる国や東京都の改定議論のポイントはどのようなところにあると考えているか、区の認識を伺います。
  • 杉並区の新たな実行計画のみどりの質を高める項目の中で2024年度にみどりの基本計画の改定が予定されていますが、この基本計画には施策11のグリーンインフラを活用した都市環境の整備の全体にわたる事業が盛り込まれると考えてよいのか伺います。
  • 杉並区では自然環境調査を定期的に行っており、1985年に第1次調査が開始されて以降、現在第6次調査まで行われています。専門家からは日本で一番長く調査をしている自治体だと評価されており、毎回発行される報告書からは、多くの動植物の存在や変遷が分かる貴重なデータを知ることができ、また、それ以前の1982年から河川の生物調査も定期的に行われており、今年の3月には第8次河川生物調査報告書が発行されています。いずれも、市街化がすすんだ杉並区にあって、一定の自然環境が残されていることを裏付けるものでありますが、なかなか、区民からは見えづらく、自分の住むまちの自然環境がどのような状況にあるのか、その価値が実感できないのは残念なことだと思っています。区は、これらのデータや分析、今後の取組みの提言をどのように施策に生かしているのか伺います。
  • 区は2008年より「善福寺川『水鳥の棲む水辺』創出事業」に取組み、2009年11月に同事業の基本方針、2014年2月に同行動方針を策定しています。この事業の目的について確認します。
  • あまり耳慣れない「行動方針」ですが、その「行動方針」というものはどういう位置づけにあるものなのか、「行動方針」を立てて8年を迎えようとしていますが、その達成度合いと今後、どのような道筋があるのか伺っておきます。

この「善福寺川『水鳥の棲む水辺』創出事業」につながる取組みとして、2018年7月に完成した遅野井川親水施設があります。この親水施設が誕生したきっかけは2014年7月に井荻小の5・6年生が区長のもとに訪れ、善福寺川の清掃活動を通して、もっと川をきれいにして、親しみやすい水辺をつくりたいという思いを伝えたことでした。当時は「みんなの夢水路」と言われていましたが、子どもを含む地域住民等が設計・整備に参画し、完成後も市民による管理がされ、大勢に親しまれる水辺環境の創出が実現しました。そして、単に、設計や整備に提案するだけでなく、埋土種子の採取や小学生による種苗植え付けなども行い、約40種類の地域性種苗等により遺伝的な地域生態系環境の再生に挑戦したことが素晴らしく、生物多様性地域戦略の実践の一つとして語れる事例だと思っています。

  • 区はこの遅野井川親水施設づくりをどのように評価し、今後の行動方針にどう活かしていくのか考えを伺います。

この間、私は生物多様性地域戦略の策定について質問に取り上げてきましたが、2017年第1回定例会の一般質問をした時は策定した自治体は6区5市でした。それが、今年7月には12区14市と多くの自治体がこの間、策定を行っているようです。計画の形態は生物多様性地域戦略として個別に計画している自治体、環境基本計画や緑の基本計画の中に包含している自治体と様々でありますが、地球環境の危機的状況に対して計画の重要性から、杉並区も策定に着手すべきであると考えています。基本構想の議論の中でも生物多様性地域戦略の策定についての意見があり、提言書にもそのことが掲載されていると認識しています。

私が、生物多様性の保全が何より重要と思うのは、人間社会の基盤は自然環境であり、その上に経済や文化がのっているという認識があるからです。私たちの暮らしが自然環境に密接にかかわり、生き物や自然の恵みから私たちの命は守られているといっても過言ではありません。生物多様性によって得られる自然の恵みを専門用語では生態系サービスといい、4つのサービスに分けられています。1つは供給サービスというもので食料、水、燃料、木材、医薬品、衣類など私たちの衣食住に必要なものを供給する役割、2つ目は調整サービスといって、大気や水をきれいにし、気候を調整し、自然災害を防ぐ役割、3つ目は文化的サービスで野外レクリエーションや行楽、俳句を詠むなどの人間生活を豊かにする役割、そして、最後の4つ目は基盤サービスで植物の光合成、昆虫や微生物が土をつくる土壌形成、水循環など、先に挙げた1から3のサービスの基盤となるものだということです。生態系を無視した開発や経済活動、人間の生活様式が今、迫っている気候危機の問題やプラスチック海洋汚染の問題、新型コロナウイルス感染症の発生にもつながっています。常に生態系のことを前提に物事をすすめていく重要性を改めてこのことからも認識するところです。また、生物多様性を環境という一面だけでとらえることは不十分であり、まちづくり、都市整備や産業振興、文化交流など全庁的にこの問題に取り組んでいくことが必要だと思います。

生物多様性について学習するたびに、その思いは強くなり、基本構想並の議論が必要だと思うようになりました。

今年のすぎなみエコ路地フェスタのトークショーで、東京大学総合研究博物館の須田真一さんによる「風景が変わると生き物はどうかわるのか」というテーマで生物多様性に関するお話を聞きました。石神井公園での研究についてのお話でしたが、種の多様性を支えるのは生態系と風景・景観の広がりをなすランドスケープの多様性であるということで、種多様性の高かった時代と低下した時代の関係を把握することは生物多様性保全・再生にとって有益な情報となるということでした。そういう意味では杉並区が持つ長年にわたる調査データの蓄積はとても重要な情報資源になると理解しました。

また、人は暮らしが安定しないと環境に目が向かないとの指摘は、先日の選挙で関心のある政策を聞いた世論調査で環境と答えた人が悲しいほどに少なかったこととつながりました。地球環境がちょっと怪しくなってきたと感じていても、日々の目の前の課題が優先され、環境問題は後回しになっているということなのでしょうか。環境問題はひとり頑張っても成果につながらないため、どう取り組んでよいのかわかりにくいという面もあるかもしれません。しかし、今、若者が環境問題に敏感になっているのは、自分たちの将来が危ういということに気付いたからであり、地球温暖化による気温上昇や干ばつ、自然災害が身近な問題となり、食料生産の危機が略奪や紛争を起こし、海面上昇で住む場所を追われる、得体のしれないウイルスが発生するなど、これまで映画の世界のようなことが現実になりつつあります。そのような問題に対して、私たち大人も危機感をもって、きちんと向き合わなければならないと思います。

そこで伺います。

  • 区・区民、さらには事業者も含め、共通の認識を持ち、共に課題解決に取り組む意味でも、目的や目標設定を明確にした生物多様性地域戦略の策定はとても意義あることだと思いますが、区は策定についてどのように考えているのかお聞きします。

須田真一さんから、目黒区の生物多様性地域戦略が参考になると聞き、調べてみました。2014年3月の策定ですが、その策定過程がとても丁寧だと感じました。2年近くかけて専門家をはじめ、区民、商店街関係者、小学校長、環境活動団体など、その地域の特性をとらえたメンバーによる策定検討委員会で策定していて、策定過程で小学生を含む様々な区民イベントをはさみながら、計画づくりへの参加を保障し、中間まとめや素案に対する区民意見募集も2度にわたり行われていました。寄せられた意見数も中間まとめに422人620件、48団体83件、素案では94人162件、17団体23件が寄せられており、区民の関心が向けられていることがうかがえました。また、短期目標に対する指標評価もわかりやすい形で公表されているなど、参考にしたい取組が多くありました。

杉並区にも様々な切り口で活動している環境団体が多く存在しているので、その方々の経験や知識を活かすこともできるのではないかと考えています。

  • 今や、目黒区以外にもいろいろな自治体が策定をしており、区としても他自治体の地域戦略を参考にしながら、杉並区のイメージをつくっているのではないかと思いますがどうでしょうか。
  • 新たな基本構想で掲げた「みどり豊かな住まいのみやこ」の実現は、生物多様性の主流化を進めていくこととつなげていくべきだと考えています。区としての生物多様性地域戦略の策定をする場合には、区民が自分事としてとらえられるようになることが重要であり、そのためには様々な分野に携わる方々の意見やアイデア、そこに暮らす多様な区民の意見を出せる機会を確保することが必要だと考えています。そして、生物多様性の保全が自分にとって必要なことと理解する人が増えれば、生きた地域戦略になると思いますがいかがでしょうか。また、区としても専門家の力を借りながら全庁的な議論を進めていくことが必要だと考えますが区の見解を伺い、私の質問を終わります。

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