私は区議会生活者ネットワークの一員として、決算特別委員会に付託された2008年度杉並区一般会計歳入歳出および各特別会計歳入歳出決算について意見を申し述べます。
今日の経済状況を見るとき、足もとの景況感は急速に改善されているものの、消費動向は鈍化し、地域経済が再び下降する景気の「二番底」が懸念されています。公共投資の維持・拡大といった従来型の景気対策への期待が低いのが首都圏での特徴です。また、雇用情勢も完全失業率が5.7%となり、年末に向けてさらに悪化することが懸念されています。
また、企業業績の悪化から法人二税が低下し都財政の悪化が明白です。これはすなわち区財政にも影響を与えることが予想され、より健全な財政管理が重要になってくるでしょう。杉並百年の計として示された「減税自治体構想」について申し上げるならば、今を生きる人のための福祉と未来を生きる人に手渡す環境にこそ、まず、税金は使われるべきで、一定額を貯めるだけが目的化するのであれば愚策にもなりかねません。
今年度から、新公会計制度による財務書類4表がつくられ、公表されました。
経常収支比率79.5%という数字は、23区の平均を上回っているものの適正水準とされる80%未満をかろうじて維持し、公債費比率4.1%、実質収支比率6.4%となっていることから、予算を適切に執行されたと判断します。
新型インフルエンザ対策や災害時対策、エコスクール化やみどりのカーテンをはじめとした地球温暖化対策、水鳥の棲む水辺創出事業、景観条例の策定など、暮らしに直結した施策が組まれたことで、堅実に事業を進められたと評価するものです。
これらのことを含め、施策の執行状況について検討した結果、2008年度杉並区一般会計歳入歳出決算並びに各特別会計歳入歳出決算を認定いたします。
以下、決算審査の締めくくりに当たり、生活者ネットワークの考え方を述べさせていただきます。
「百年に一度の経済不況」と事あるごとに言われます。けれども子育て、介護、雇用などの問題に突き当っても、この言葉が、まるで免罪符であるかのように使われ「めったにないことなのだからやむを得ない」と私たちは妙に納得してしまってはいないだろうか、と自戒を込めて考えています。
経済不況から、乳幼児をかかえて働かねばならない人たちがふえ、しかし、子どもを預けるところがない。区は急ピッチで保育所増設を進めているが、まだ足りない。保育園に入れなかった人はやむを得ず子どもをベビーホテルなどに預けて働いている現状があります。入園が決まるまで、月10数万円の給与を得るために、無認可保育園に月10万円以上支払う、という生活を選択した方もいます。このご時世でやっと決まった仕事を失えない、というのが本音でしょう。せっぱつまった状況に政治はしっかり応えていかねばなりません。
保育園の待機児急増への対応は緊急課題ではありますが、女性の就業率が増加し、出産後や育児期間も十分に休暇を取れる職場状況にない人もあります。女性が能力を生かして仕事を持ち、社会に貢献することが困難なく継続できるように、行政は環境を整えていくことが必要です。
思わぬ形で、日本にも「みんな」が働く社会がやってきました。4年後の人口推計から
緊急保育計画が出されましたが、根本的には、働きながら子育てをするにはどういう支えがあればよいのか?子育てはだれが担うのか?子どもを犠牲にしない仕事のしかたは?などの視点で、長期ビジョンが描かれ、実行されねばなりません。
現在のように経済不況をバックに雇用不安が社会問題化するとき、地域の助け合いなしに解決は難しいでしょう。効率一辺倒ではなく、この国本来の技を重視したものづくりや、「お互いさま」の精神で助け合うという、連帯感の回復が求められてくるはずです。また、物があふれている日本にあっては、まさに安全・安心・本物が選ばれるようになるでしょう。これは政治においても然りです。
60年ぶりに本格的な政権交代がなされ、これまでの政・財・官の癒着から起きた税の無駄使いが徐々に明らかになってきています。成熟した日本にあってはハードからソフトへ、コンクリートから人へと思考を転換させること、さらに、地方主権が実現できるよう税の流れを大きく変えることもなされなければなりません。
新政権発足後3週間足らずですが、日々新しい方針が打ち出されるたびに、政権交代とはこういうことなのか、と政治の変化に心を躍らせているところです。しかし、手放しで喜んでいるばかりでは、これまでと同じことになるのは目に見えています。「国民の生活が第一」になっているか、真の意味で生活者の視点に立っているか、をチェックしていかねばなりません。誰かにお任せするのではなく、市民自ら汗を流し、まちづくりに参画していく社会のしくみつくることが今こそ必要です。
地域のことは地域が決める―これは、自治・分権を目指し活動する私ども生活者ネットワークが、使ってきた言葉ですが、今決算特別委員会では、このフレーズが幾度か区側の答弁から聞かれました。
地方主権そして市民主権の社会を市民と行政がともに手を携え、やり直しのできる社会をつくっていくことが重要です。
今回、多くの委員から言及のあったセシオン従業員の被った給料未払い問題への区の対応は、努力された結果と理解します。しかし、他の区施設においても二重委託や不当解雇の問題がおきていることを、私たちのもとに相談が寄せられ、つい先日知ったところです。ほかにも同様の事件がないか、早急に調査し、万一問題が見つかった場合には、誠実に対応されることを望みます。
経済状況が悪化し、生活不安を感じる人が増えている、こういうときこそ、区民の生活をしっかり支えられる自治体でなければなりませんし、このような時だからこそ、社会的に価値のある事業活動を行っている企業や、人間らしい働き方のできる職場を創出している企業を優遇する、そういう自治体でありたいものです。その意味で、先般、千葉県野田市が公共事業の受注者に最低賃金の支給を義務付けた「公契約条例」を定めたことは、注目すべき取り組みです。
杉並区では、入札改革を進める中で、総合評価方式の採用を広げようと検討されているとのことでしたが、自治体としての契約のあり方を定める「公契約条例」の制定を視野に入れる時期に来ていると思います。ぜひ検討くださるよう、重ねてお願いするものです。
区が、行財政改革プランにそって着実に進めてこられた職員削減計画と表裏をなすのが、「全事業の6割協働化」計画です。いうまでもなく、今日の社会は公共サービスを行政だけではなく、さまざまな人や機関、事業体、さらには、地域にふつうに暮らす市民たちがミッションをもって集まってできたNPOなどがかかわって担うことによって成り立っています。その関わり方も必要に応じて多様な形態が生まれ、であればこそ可能な6割、ということです。6割という数の根拠をうかがいましたが、分母が流動的であることがわかりました。数字のマジックにとらわれることは本質を見失うことになりましょうし、区の本意でもないと思います。
地域では行政の事業でもなく、その下請けでもない公益的な事業が、市民の主体的な活動によって担われているということを、ぜひとも押さえておいていただきたい。そうでないと現実の社会のありようを正しく捉えられない、と質疑の中でも申し上げました。
ただ、区の言われる「協働」という言葉が、民間委託、業務委託、指定管理、行政サービス民間事業化提案制度、PFIなどアウトソーシングの手法と同様にNPOまでを含めて使われていることに、自治基本条例にうたわれる「協働」の理念にこだわる私どもとしては抵抗がありますが、そのことについてはまた別の機会に論じることにします。
さて、私たちが取り組まねばならない問題として環境問題があります。
鳩山首相が打ち出した1990年を基準年とした温暖化ガス25%のカットはその決断に強く賛同するものです。しかし、簡単に実現できる数字でないことも知っています。
杉並区の場合、排出割合の多くは民生部門であり、なかでも家庭からの排出量を大幅にカットしなければ25%削減はなしえません。太陽光・太陽熱エネルギーの利用を最大限拡大し、家電の省エネ開発にも期待するところです。区として、温暖化防止のための省エネルギー政策、CO2削減計画についての中長期ビジョンを示す必要があると考えます。
最後に議会運営について一言申し上げます。
今委員会は、財政健全化法成立後初めて行われる決算の審査でした。夕張市の財政破たんを教訓にできたこの法律によって、議会や監査委員会の責任がこれまで以上に問われてきています。予算は見込みのものであるのに対し、決算は行政が執行した税金を表したものでより重要です。決算審議の時間は予算の審議時間一人6分より短い5分という状態では、とても、決算を大事にして行こうという議会の姿勢がうかがえるものではありません。当委員会の冒頭で、他の委員から質問時間への指摘がありましたが、私ども区議会生活者ネットワークとしても決算の質問時間についてご一考いただきたい旨、決算意見に申し添えまして、区議会生活者ネットワークの意見とします。