いのち・平和クラブを代表して、2023年度杉並区一般会計予算並びに各特別会計予算及び関連諸議案について意見を述べます。
昨年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻で始まった戦争は1年たった現在も出口が見えず、世界規模での軍事的緊張、エネルギーの高騰など大きな影響を与えています。
国内に目を向けると、岸田政権は国会の議論を経ずに、原発の60年超え運転延長や建て替え容認の方針に転換し、防衛費を5年間で43兆円とすることを閣議決定しました。こうした国民の声を聴かず、いっそう軍事的緊張を高め、いのちを脅かす姿勢は決して許されず、批判の声も強まっています。
3年以上にわたるコロナ禍は、生活困窮と経済格差の拡大を招き、ウクライナ侵攻や円安が原油や生活必需品の値上げに拍車をかけ、区民生活に大きな影響を与えています。
こうした先の見えない不安定な社会状況の中、私どもいのち・平和クラブは、住民に一番身近な基礎自治体の役割である区民福祉をいかに支え向上させるか、長引くコロナ禍での疲弊や物価上昇、昨今の気候危機から区民の命と財産を守り、子どもたちが将来に希望を持てる予算となっているかに注目しました。
情報公開と対話を重視し、気候危機などの重点課題を区民参加で進めることを表明する岸本新区長の予算案に対し、予算編成方針および区政経営計画書の主要事業の概要に沿って、予算特別委員会の質疑も踏まえ、評価する点および要望する点など、意見を述べます。
第1に、区財政と区政運営についてです。
ウクライナ戦争の長期化によるエネルギー危機、海外景気の下振れや金融資本市場の変動など、今後の不透明な経済状況と、ふるさと納税をはじめとする不合理な制度による歳入減が見込まれる中、特別区特有の待機児童対策などの緊急を要する課題や、首都直下型地震などの大規模災害への備えに多くの財源が必要となっています。これに対応するために財政の健全さを保ち、必要なサービスを継続的に提供できる財政運営が求められています。本予算案は、2022年に始まる総合計画に定めた「財政健全化と持続可能な財政運営を確保するための基本的な考え方」に基づき編成され、安定した区政運営を実現できるものと確認しました。
歳入の款で、2022年度以降の40年間の、区立施設の再編整備計画で、必要な財源が確保できるのかを確認しました。特に向こう10年間は改築時期が集中するために財源確保が厳しい時期となります。中でも多額の経費を要する学校改築にあたり、改築の平準化、長寿命化を図りつつ、日常的に予算の確保、コストの削減に向けた施設維持管理の適正化など、多角的な取り組みが必要とされ、全ての区立施設を総合的にマネジメントすることの必要性が国から示されました。地方自治法で住民の福祉を増進する目的で規定された公共施設は、コストの削減だけを重視した進め方ではその役割を果たせないおそれがあります。財源確保のための不要施設の売却や民間との連携が、住民サービスの削減にならぬよう慎重に進めること、また民営化や指定管理の導入がサービスの質を下げるものにならぬようにしっかり検証することを求めます。
第2に、区民生活についてです。
指定管理者制度について、様々な立場の方にアンケートを行ったことを確認しました。私どもには特に区民センターなどへの指定管理者制度導入により、区民サービスの向上が図られたという声がある一方で、活動場所としての使いにくさ等の声が届いています。区はこうした声を把握していないとのことでしたが、アンケート調査だけでなく、生の声も吸い上げ、検証に活かしていただく様求めておきます。また、アンケートの集計結果をぜひ共有させていただくよう要望します。
震災救援所の居住性確保に向けて、これまで求めてきた段ボールベッドの導入の準備が進んでいることやトイレの配置の考え方が確認できました。段ボールベッドの発災時の調達についても事業者と確認していることがわかりました。今後、震災救援所における配置計画や訓練を通して、非常時においても混乱がないようさらなる準備をすすめていただきたいと思います。また、女性の視点から備蓄品を選定する場合は、多様な世代や立場にも配慮し、幅広く意見を聴くよう求めておきます。
第3に、保健福祉についてです。
一つの家庭で複雑で複合的な生活課題を抱えるケースが増える中、区が縦割りから分野横断的な取組の転換を重視し、在宅医療・生活支援センターを中心に、地域における支え合いのしくみづくりの推進や区民を支える包括的支援体制の強化をすすめて来たことを評価します。家族丸ごとの支援がさらにすすむためには、国がすすめている重層的支援体制整備事業に取り組むことも必要であり、今後に期待します。答弁からも行政が地域住民や社会資源と一体的にすすめていく姿勢が確認できました。住民自治を生み育てる視点、ネットワーク型のまちづくりを意識的にすすめていただくよう要望します。
第4に、子ども家庭支援について。
「子どもの権利に関する条例」の制定に向けては2年間かけて、子どもの意見や思いを丁寧に取り入れていく区の姿勢を確認しました。子どもは権利の主体であり、親の所有物でも付属物でもないことを大人こそが理解しなければなりません。子ども自身が主体的に考え、決定に参画していくことを大人がサポートする体制をしっかりつくって臨んでいただくよう要望します。
また、子どもの貧困やヤングケアラーの実態調査は対策を打つ上で必要不可欠な取組です。全体的な傾向把握だけでなく、個々の実態に即した支援につながるよう、支援団体や当事者からの声も集め必要な支援策をつくっていくことを要望します
第5に、都市整備についてです。
都市整備費の中でこれまで議論があった都市計画道路132号線は、事業認可後も地権者や借家人など沿線住民の理解を得ながら丁寧に進められていることが確認できました。計画では車道幅はそのままで、歩道や自転車レーンの幅を広げ、高齢化と人口減により車が減少する時代の人に優しい道路をめざしていることがわかりました。立ち退きや店舗の移転を迫られる方へは暮らしや事業の継続を可能とする十分な補償を区に求めたところ、対象となった方々から不満は出ていないことも確認しました
事業化が始まった阿佐ヶ谷駅北東地区まちづくりは、区内基幹病院として重要な河北総合病院のたてかえを契機にしたものです。けやき屋敷の地権者が屋敷跡地を病院の建て替え用地として貸すことが区に報告されたことで、病院跡地に杉並第一小学校を建て替えることを申入れ、3者の協議が整いました。耐震性に課題がある河北総合病院は、現在の位置で運営を継続しながらの建て替えは不可能で、場合によっては他の地域に移転する恐れもありました。また年間8000台の救急車両が通過する商店街は道路幅が狭く、危険なことから改善が求められていました。けやき屋敷の貴重な緑と震災時の大切な空地は、地権者の努力だけで維持することは難しく、相続税対策で民間の開発に委ねる恐れもありました。区が介在する地区計画になったことで、より多くの緑を守ることが可能となりました。当初杉並第一小学校は現在の位置に高層化し校舎の屋上を校庭にする案で保護者の了解を得てきました。震災時の避難や救援所としての利用には課題が残り、またけやき屋敷を緊急時の避難場所にしていたことは病院の建て替えで不可能となりました。病院跡地への建て替えで校庭も地上につくられ震災救援所としても機能をはたせることになりました。これまでの質疑で心配していた土壌汚染、浸水対策も十分施されることが確認できています。
133号線は、多くの住宅上に計画され、未だ反対の声が地域の多数をしめていることから、会派としては事業化には反対です。東京都に現状を伝えつつ、区としては住民の立場に立って対応するよう求めます。
下高井戸1丁目は京王線の高架化に伴い、中央高速の高架との谷間になり、騒音や排ガスなどによる環境悪化や、狭隘道路が多く住宅密集地域であることから震災時の危険性が指摘されています。区境の地域では、他区の避難所が至近距離となる場合があり隣接区との連携が不可欠です。防災組織の育成やまちづくりの課題について世田谷区との連携を強めるよう求めます。
第6に、環境施策についてです。
気候変動問題に重点を置き、「(仮称)気候区民会議」での議論を経て、多くの区民参加で取り組みを進めようとする試みに期待をしています。杉並区地球温暖化対策実行計画(案)が出され、2030年の温室効果ガスを2000年比で50%削減するという具体的で高い目標が示されました。これを達成するために特に必要なのが家庭部門でのCO2削減となっています。区には着実に取り組みを進めることを求め、私どもも区民と共にできる限りの努力をしたいと決意を新たにするところです。
第7に、職員についてです。会計年度任用職員は、女性が87%、区内在住者が65%となり、常勤職員と比べても圧倒的に女性、そして区民が多いことがわかりました。2022年度は355名が勤続年数6年をむかえることから、労働施策推進法などに基づきハローワークへの大量解雇の通知義務を負うことを指摘しました。年限撤廃は、こうした煩雑な手続きを避けるためにも不可欠であり、また当事者からも不安が訴えられていることからまったなしです。改めて当事者の立場に立って対策を取るよう強く求めておきます。
第8に、教育についてです。
不登校児童生徒が過去最多の700人を超える状況で、その子ども達がそれぞれの状況に応じた教育の機会を確保できるよう、新たに不登校特例校設置の調査研究及びさざんかステップアップ教室の増設を検討することが示されたのは重要です。保護者同士の情報交換やピアカウンセリングにもなる親の会を教育委員会が主催することを、引き続き要望いたします。
コロナ過での制限の多い生活が子どもたちに与えた影響は計り知れません。質疑で教育委員会のマスク着用に対する今後の考え方を伺いましたが、強い強制力と同調圧力によってマスクを着用してきた子どもたちが、一刻も早く気兼ねなくマスクを外せるよう、それぞれの子どもに配慮しつつ働きかけを行うよう要望します。
以上の理由から、2023年度一般会計予算及び各特別会計予算について賛成いたします。 次に、予算関連議案について意見を述べます。
議案第11号、杉並区職員の特殊勤務手当にかんする条例の一部を改正する条例については、東京都が児童相談所業務の手当額を引き上げたことに伴い、杉並区の児童相談所業務手当を見直すものでありますが、人材確保の点からも重要であり賛成します。
議案第12号、杉並区性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取り組みの推進に関する条例についてです。全国255の自治体ですでに条例などが制定されていることが判りました。本条例は、誰もが自分らしく生きることが尊重される社会に向かうためのものです。性的マイノリティの方々への理解が社会全体に広がり、また私たちが享受している当然の権利が、同性婚をはじめとするすべての方々に行きわたることを切に願うものです。
今回「性自認」が、犯罪を誘発するとの意図的で誤った宣伝が行われ、不安と偏見を煽っていることは許されません。議案に反対する唯一の理由である「トランスジェンダーを装った男性による女性への人権侵害」は先行自治体では起こっていないことを確認しました。このように全く別次元の問題を同列に扱い、条例案を攻撃するのはヘイトそのものです。優先すべきは誰一人として性犯罪の被害者にしない社会づくりとそのための法的整備を急ぐことです。また、本条例から事実婚が除外されたことは残念であり、今後の拡充を期待します。
議案第13号、杉並区立コミュニティふらっと条例の一部を改正する条例についてです。本議案は方南集会所だった場所にコミュニティふらっと方南を設置することとその使用料を定めるためのものです。なお、この地域では、児童館と併設になっているゆうゆう方南館が方南小学校の児童数の増加から学童クラブと放課後の居場所事業を行う施設へとなります。そのため、昨年11月8日の住民説明会では、ゆうゆう館や方南集会所を利用する方々から、活動場所の縮小により定期的利用への不安や施設の環境整備に関する意見・要望が出されていました。区にはこれらの要望に最大限応えるための努力を求めて、議案には賛成とします。
議案第15号杉並区事務手数料条例及び杉並区地区計画の区域内における建築物の制限に関する条例の一部を改正する条例についてです。これは建築基準法の一部が改正されたことを受け規定の改正を行うものです。また、省令等の一部が改正されたことに伴い建築物エネルギー消費性能向上計画認定申請手数料等を定める必要があるための条例提案であり、必要な改正であることから賛成します。
議案第28号、杉並区国民健康保険条例の一部を改正する条例についてです。コロナ感染症の医療費が国保財政の対象とされたことから、国保事業会計の支出が増大しています。23区は国保料の急激な値上げを避けるための対策を取りながらも、支出が増えたことで保険料の値上げは避けられないものとなりました。国保制度は、支出が増えれば青天井で保険料の値上げとなり、被保険者の暮らしへの影響は大きく、払いたくても払えない人を増やします。皆保険としての国保制度を成り立たせるためには、国の抜本的対策が必要です。今後も区長会として国や都への対策を強く求めるよう要望し賛成とします。
議案第29号、令和5年度杉並区一般会計補正予算第1号は、すべての年齢を対象とする新型コロナワクチン接種の費用が含まれています。質疑で明らかにしましたが、区内では10代までの副反応報告数は5名でその内重篤とされたものが3名にも上ります。一方その年代でのコロナウイルス感染症では重症者はいません。このワクチンは特例承認されたもので、接種が事実上の臨床試験と言えますが、区の状況から見て子どもにとっては明らかにワクチンのデメリットがメリットを上回っています。全国では400以上の自治体が子どもへのワクチン接種券の一斉送付を行わない慎重な対応をとっている中、杉並区はこのような状況であるにも関わらず、子どもへワクチン接種券の一斉送付を行うことは、子どもの命を守る姿勢とは言えず改善を強く求めるものです。よって補正予算に賛成はできません。
そのほか議案第14号、議案第27号、議案第30号には賛成します。
最後に、資料作成に御尽力いただいた職員の皆様に感謝を申し上げ、いのち・平和クラブの意見開陳といたします。