第2回定例会 一般質問 2023.6.2 奥田雅子

認知症の人が暮らしやすい地域づくりについて

目前に迫る超超高齢化社会を見据え、2019年6月に「認知症施策推進大綱」が国の認知症施策推進関係閣僚会議で取りまとめられました。それを受けて、私は折に触れて区の認知症対策について質問に取り上げてきました。

国はその後の議論を経て、今国会で認知症基本法が成立かといった局面を迎えています。

法の趣旨は急速な高齢化に伴い認知症の人が増加している現状に対し、認知症の予防等を推進しながら、認知症の人が尊厳を保持しつつ社会の一員として尊重される共生社会の実現を図るというものです。

区も認知症介護研究・研修東京センター(以下東京センター)との協定をすすめ、認知症対策をより一層充実したものにしていこうと取り組まれていると認識しています。現在、次期高齢者保健福祉計画の改定の議論が進められており、東京センターの助言が計画に活かされていくことを期待しているところです。

そのような中、先日、東京センターの永田久美子さんに現在の全国の動きや変わる認知症観についてお話を伺い、意見交換の場を持ちました。

国の動きとともに、認知症施策をめぐる全国の動向として言えることは、現在、非常に重要な転換期であるということでした。それは認知症観の転換であり、以前にも紹介した「認知症とともに生きる希望宣言」にあるように本人発信、本人参画、認知症バリアフリー、地域共生社会へとこれまでの認知症に対する古い常識を新しい常識に変えていくというものです。どこで暮らしていても人権が守られる生活の保障ができているかという視点から、区の認知症施策について伺っていきます。

Q1. 認知症だから無理と最初から決めつけて、本人の人権が侵害されていないか。医療の前に専門職が人権の視点を持つことが先という基本が全国のトレンドになりつつあります。認知症施策の継続、積み上げを担保し、本人のみならず、家族や働く人の人権にも目を向けた条例をつくる自治体も増えてきています。また、広島県広島市、岩手県矢巾町(やはばちょう)、長野県上田市豊殿(ほうでん)地区や和歌山県御坊市、鳥取県鳥取市、世田谷区などの動きは参考になります。このような認知症施策を巡る全国の動向に対する区の認識、それらを受けて自治体としての責務をどう受け止めているか伺います。

Q2. 国の大綱でも示されているように、これまでの認知症になったらもうおしまいといった絶望感から脱却し、これからは発想を変えるべきです。つまり、「自分事」、「本人視点」、「可能性重視」、「ともに」、「希望」をキーワードに認知症の新しい常識・文化を醸成することで、本人の存在不安が緩和され、状態が安定し、力を発揮し、支え手としても活躍できるようになる。その結果、家族や社会の負担も軽減していき、一人暮らしでも地域でつながりを持ち自分らしく暮らし続けられるようにしていく時代に突入したという認識を私は持ちました。

このように、認知症観の転換期と言われていますが、区の認識はどうか、新しい認知症観について、区の捉えについて伺います。

Q.3 今年度、新規事業として「東京センター」との連携が予算化されました。このような認知症の転換期と言われる状況に対応してのことと考えますが、連携の意図、協定内容など具体的にお示しください。

Q.4 区が把握している認知症の人の数と、推計する数はどのくらいか伺います。

現在の杉並区高齢者保健福祉計画では施策1の高齢者の地域包括ケアの推進の中に高齢者の認知症対策があり、①普及啓発や本人発信の支援②認知症の予防③認知症の早期発見・早期対応に向けた体制・連携強化④介護者の支援の充実⑤認知症バリアフリーの推進(共生の仕組みづくり)⑥若年性認知症の方への支援・社会参加支援の6つの柱が立てられています。

Q5. この6つの柱に沿って、施策や事業が展開されていますが、次の改定に向けてこの間の取組をどのように総括し、今後の取組の方向性はどのように考えているのかお聞きします。

ここからは、先ほど挙げた高齢者保健福祉計画の6つの柱に沿って、区の事業について伺っていきます。 まず、1つ目の柱、「普及啓発や本人発信の支援」について

Q6. 認知症サポーター養成講座は認知症の人と関わる機会が多いことが想定される小売業・金融機関・公共交通機関・公共施設・消費生活相談・警察などの職員向けに実施する必要があります。区内で実施されている機関はどのようなところか、すべて教えてください。

Q7. また、子どもや学生向けの養成講座の実施や高齢者との交流などを通じて、子ども・若者の認知症の人への理解を深めることも必要ですが、学校ではどのように取り組んでいるのか伺います。

2つ目の柱の「予防」について

杉並区には区が主催する認知症予防教室や講演会の開催などの啓発事業の他、地域住民の自発的な活動が沢山あります。運動・スポーツ、学びの場や農作業、地域の居場所でのサロン活動等の高齢者の社会参加の場の提供は、社会的孤立を防ぎ、役割の発揮や高齢者の生きがいにもつながり、なによりも地域活動に参加することが介護や認知症予防になるため、今後、ますます重要になってくると考えます。地域の個々の活動を面でとらえネットワーク化する取組みとして、現在、ケア24を中心に進められている生活支援体制整備事業第2層協議体の活動がまさに地域の支え合いによる生活支援の体制の具現化として私は期待しています、そこが実際に何をするかが重要だと考えています。

Q8. 区はこの第2層協議体を今後、どのように発展させていこうと考えているのか、その展望を伺います。

Q9. 区は基本構想の基本的理念で「誰一人差別されず、取り残されない社会」をつくると謳っています。超超高齢社会に向かい、もはや行政事業だけでは立ち行かない現実がある時、地域の力を合わせてセーフティネットを張り巡らせていく必要があります。その場合、地域住民の自発的活動が杉並区の地域の支え合いの一員として参画し、その活動が持続発展していくよう区としても何等かの支援が必要だと考えています。住民自治への投資と考え、自由度のある予算配分も含め今後、検討が必要だと考えますが、区の見解を伺います。

次に3つ目の柱「認知症の早期発見・早期対応に向けた体制・連携強化」について

Q10. 区ではもの忘れ予防検診を70歳になる区民を対象に2021年度より実施しています。認知症に関する正しい知識の普及啓発を行うとともに、認知症の前段階である軽度認知障害の方を早期に発見し、その後の適切なフォローを行うことで認知症の発症や進行を遅らせることを目的としているとありますが、受診者の数はどのくらいで、フォローの対象となるのは何%くらいか。具体的にどのようなフォローがされるのか。また、この事業の効果をどのように区はとらえているのか伺います。

Q11. 認知症初期集中支援チームについて、現在、何チームあり、どのような取組がなされているのか具体的に説明をお願いします。

Q12. 区は、認知症の相談にあたる認知症サポート医やケア24スタッフをはじめとする医療や福祉の専門職に向け 「認知症対応サポートブック」を発行しています。相談に来た人の不安に対して、最初に「大丈夫!」と言ってあげることで、本人や家族が不安になり隠そうとしたり、孤立してしまうような絶望感を持たなくて済むような、認知症に対する新しい常識を意識した内容になっているか、区の見解を伺います。

次に4つ目の柱「介護者の支援の充実」について

Q13. 家族や介護者の支援メニューは様々あり、どれも必要なサービスだと考えますが、実績を見た時、必ずしも多いとは言えないものもあります。知られていないのか、使い勝手の問題なのか介護当事者も交えた検証が必要ではないでしょうか。区の見解を伺います。

生活者ネットワークではケアラー支援の重要性をこの間の重点政策とし、議会質問でも折々取り上げてきました。ケアラーにとって必要な支援は多様であるため、ひとり一人のニーズを丁寧に聞き取り支援内容を計画するケアラーアセスメントの重要性を訴えた1年前の私の質問では、厚労省が作成した家族介護者支援マニュアルに沿って、ケアラー支援プランを作成しているとの答弁でした。

Q14. ケアマネ不足が言われる中、ケアラーアセスメントのような介護者支援も含めたきめ細やかなケアプランの作成が定着しているのか心配するところですが、現状はどうか、区の認識を伺います。

Q15. もの忘れが気になりだした方向けの「認知症あんしんガイドブック」には様々な情報が盛り込まれており、よくできているとは思いますが、当事者目線で点検すると改善の余地もあるように感じます。そのため、ガイドブックの改定の際には認知症本人や家族の声を聴きながら作成に活かしていただきたいと思いますがどうか、区の見解を伺います。

次に5つ目の柱「認知症バリアフリーの推進(共生のしくみづくり)」について

身体障がい者などに対応したバリアフリー化は一定程度すすみましたが、認知症のバリアフリーは置いて行かれたままになっています。認知症の人にとってのバリアはどんなことかを本人やその家族等から直接声を聴く姿勢が重要だと考えます。買い物や通院、銀行、郵便局、移動、公共施設等生活のあらゆる場面で認知症の人にとってはバリアだらけだという認識を私たちは持つべきです。

昨今、よく聴く事例では、スーパーなどで万引き疑いをかけられ、すぐさま警察沙汰になって家族は見張っておくようにとか施設に入れるようにと警察から言われ、本人も家族も傷ついてしまう。結果、認知症の人は外出を制限されて自由を奪われてしまうということが起きているということです。もちろん自由と安全のバランスの中で対応することが重要でありますが、一方的に認知症本人の気持ちを無視してしまうことは逆効果にもなりかねないため、寄り添える体制が必要となると考えます。

Q16. 認知症になっても自分のやりたいことができ、心豊かに安心して社会参加していける環境を整える必要があり、そのためには本人が意見を出せる場への参加は欠かせません。様々な場面ごとに課題解決するためのアクションミーティングの仕組みづくりが必要だと考えますが、区の見解を伺います。

Q17. 一方、町会・自治会を始め、地域でのささえあいの機運を高めるためには、地域住民の参加も不可欠です。認知症に対する新しい常識に頭を切り替えて、地域社会の認識を変えていく必要があると思っています。その一つのしかけとして、その地域ごとの高齢化率や認知症の人数等のデーターを地域住民と共有し、自分事として考えるきっかけを区として投げかけてみてはどうかと考えますが、区の見解をお聞きします。

Q18. 今年度、認知症の本人やその家族のニーズに合わせた支援ができるよう、地域ごとに「チームオレンジ」の育成に予算がつきましが、そのチームオレンジの取り組み状況について伺います。どこに位置づき、構成メンバーは誰で、どのような活動をしているのか、また、区としてどのような活動をイメージしているのか具体的に伺います。

Q19. 現在も高齢者を見守るしくみは民生委員やたすけあいネットワークや成年後見人等ありますが、このチームオレンジとはどのようにすみ分け、または、連携を考えているのか伺います。また、認知症で一人暮らしが今後増えていく中で、居住支援の充実も課題になっていると考えますが、それぞれの役割の明確化について区はどのように考えているのか見解を伺う。

Q20. また、今後チームオレンジの数を増やしていく必要がありますが、どのようにはたらきかけていくのか伺います。

Q21. 東京センターより、「希望をかなえるヘルプカード」が提唱されています。自分が行きたい所ややりたいことを名刺大のカードに書いて持ち歩き、困った時にそれを見せて支援を求めるためのツールです。最近では「私は認知症です」というカードを選ぶ人が30%になってきたそうで、本人発信ができる社会に変わりつつあると感じました。区も「助けられ上手になろう」とこの間発信してきており、このヘルプカードもそのツールの一つになり得ると考えます。また、認知症になってから使い始めるというより、その前から使い方をイメージしておくことも必要だと考えるため、認知症サポーター養成講座やおたっしゃ訪問、高齢者向けの送付物に同封する等して、区としてもこのヘルプカードの普及をすすめてはどうかと考えますがいかがか伺います。

最後6つ目の柱「若年性認知症の方への支援・社会参加支援」について

Q22. 高齢者在宅支援課に若年性認知症相談窓口が設置され、認知症支援コーディネーターが相談を受けていると認識しています。この間の相談件数はどのようになっているか確認するとともに、計画に記載がある、若年性認知症の実態把握と共に切れ目のない支援体制の構築状況についても伺います。

今回、認知症対策について、認知症の古い常識・文化を新しい常識・文化へと変えていくことが重要であるという視点から縷々質問してきました。古い認知症観のままで悪循環に陥り、苦労している人が非常に多い現状があります。絶望の悪循環から希望の良循環に変えることで互いに楽になる。新しい認知症観を「地域のあたりまえ」に若者や子どもも含め浸透させていく必要があります。普段からのつきあいの中で”変化があっても、これからもよろしくね“と言い合える地域づくりが必要であり、認知症になっても希望をもって住み慣れた地域で暮らし続けられる杉並区にしていきたいと私は思っています。

最後に認知症本人たちが29回も書き直して言葉を紡いだ「認知症と共に生きる希望宣言」の本人たちの思いを紹介します。

私たちは、認知症と共に暮らしています。

日々いろんなことが起き、不安や心配はつきませんが、

色々な可能性があることも見えてきました。

一度きりしかない自分の人生をあきらめないで、

希望をもって自分らしく暮らし続けたい。

次に続く人たちが、暗いトンネルに迷い込まずにもっと楽に、いい人生を送ってほしい。

私たちは、自分たちの体験と意思をもとに

「認知症と共に生きる希望宣言」をします。

この宣言をスタートに、自分も希望をもって暮らしていこうという人、

そしてより良い社会を一緒につくっていこうという

人の輪が広がることを願っています。 と綴っています。

この宣言をきっかけに自らの言葉で体験や希望をリアルに伝え、常識を変える本人が全国で急増中とのことです。認知症を自然体でオープンにできる環境づくりは暮らしやすい地域にもなります。今後の超超高齢社会の進展に伴い、認知症はありふれた状態になり、一人暮らしの認知症も増えていき、今まで体験したことのなり世界が始まっています。

Q23. まずは区役所の中から認知症に対して新しい常識に転換していかなければならないし、それに合わせた制度の見直しも必要になってくるでしょう。最後に区の今後の展望をお聞きし質問を終わります。

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