09 3/12 小松久子
予算特別委員会の最終日にあたり、当委員会に付託された2009年度一般会計予算をはじめとする諸議案に対し、区議会生活者ネットワークとして意見を申し述べます。
限られた時間ながら委員会での質疑をとおして、一般会計ならびにすべての会計予算案、および委員会最終日直前の昨日、提案された補正予算について、各論はさておき総論として賛成すべきと判断いたします。また他の条例案についても、いずれも区議会生活者ネットワークは賛成といたします。その立場から、以下、時間の制約により述べられなかったことなど何点か絞って意見を申し上げます。
2009年という年は、米国の失政に端を発した経済危機が日本にも飛び火し、働く場と同時に住むところも失った非正規雇用の人たちを大量に生み出すという、厳しい社会情勢の下で明けました。国外に目を転じれば、イスラエルによるガザ攻撃が子どもを含む無垢の人々の命を奪い、地球上から戦火が消える日がすぐにはやってきそうにないことを思い知らされた年明けでした。
不況による影響がさまざまな形で市場に広がるなか、当該年度の杉並区における区税収入は前年と同規模と見込まれているものの、今後は縮小を余儀なくされることは必至です。一般会計と特別会計の総予算額で前年比マイナス7.1%、一般会計予算はマイナス7.7%という財政立ては現段階で妥当と考えますが、この先の景気動向から目を離すことはできません。
昨年の区議会第4定例会において、国に対して「協同労働の協同組合法」、いわゆるワーカーズ法制定を求める意見書提出が議決されたことは、雇用問題、労働問題が深刻化するなか、地域における働き方の選択肢を増やす意味でも、時宜にかなったことだったと思います。とはいえ、今の国会運営の中にあって法整備がどのように進められるのかが見えず、現実は働き方を選べるような状況でなくなってきたことも事実です。
坂道を転げ落ちるように経済情勢が悪化する社会を私たちはどう乗り越えていくのか。すでに多くの考察がされていますが、たとえば経済評論家、内橋克人氏の提唱する「食料、エネルギー、ケア」の3つをキーとした経済循環論には学ぶところ大と考えます。すなわち、「食料、エネルギー、介護を自給、消費し、さらにそこに雇用をつくりだす。人間の基本的な生存権を大事にするという価値観のもとで新たな基幹産業を創出し持続可能な社会に変える」というものです。アメリカ合衆国のオバマ大統領が打ち出したグリーン・ニューディール構想と共通する考え方ですが、区政にも通用するものであり、「連帯と参加と協同を原理とする」という点は、身近な自治体でこそ実現可能性が展望できるものです。
ただ、助け合いによる地域づくりは生活者ネットワークとしてもめざすところですが、地縁・血縁の助け合いを美化し古き良き日本に回帰しようとする志向には落とし穴のあることに気づく必要があります。先の内橋氏も「古き良き日本がいいとは思わない。基本的な生存権が奪われていた時代ではなく、人間を第一義とする共生経済をめざす」と述べています。文化や伝統、日本の美徳などがことさら強調されるときには、その裏に個人の自由や基本的権利の抑圧が隠されているかもしれず、注意深くあらねばなりません。
さて、介護保険制度が今回4度目の改正となります。区では独自策として、小規模事業者が行う健康診断に助成し、介護従事者の健康管理に努める事業者を支援していく考えを示されました。介護従事者のもうひとつの処遇改善策としても評価したい取り組みです。新制度のスタートにあたり、運営協議会を目的に沿って機能させ、当たり前のことですが利用者が使いやすいように、適正に、かつ適正さを追求するあまりに厳格に過ぎることのないよう、適度な運用を要望いたします。
つい先だっての3月8日、自宅で祖母の世話にあたっていた23歳の男性が、92歳のおばあさんを浴槽に入れたまま放置して死なせてしまうという事件が区内で起きました。同居している母親が介護保険の利用を望まなかったため、息子と交代で世話していたとのことで、介護保険が利用されていれば避けられた事件でした。このような利用を望まない人がいる一方、同居家族がいると介護保険のサービスを受けられないと思いこんでいる人が少なからずいます。前回の改定で家事援助サービスが受けられなくなったことから生じた誤解ですが、介護保険の周知がいまなお不十分であるということです。制度改正を機に十分な周知を図って、在宅介護の重圧に押しつぶされる人を救済し、介護する人にも支援となるよう期待します。
医療制度改革のもとで、地域医療、在宅医療が重視されるようになっています。区では(仮称)在宅医療推進協議会を設置されるとのこと。人生の最後のときを自宅で迎えたい、という多くの人の思いをかなえる前提となる在宅医療、それを支える地域医療体制をつくりあげるための一歩として、注目しています。
食の安全に関連した質疑の中で、衛生試験所を存続させる区のお考えが示されました。消費者の食に対する不安をあおるような事件は最近聞かれないものの、1年前の冷凍ギョーザ事件はいまだ解決されておらず、いつまた何が原因で不安が増幅するとも限りません。衛生試験所は食を扱う事業者の安全・衛生管理を支える重要な機関でもあり、区有の施設としてあることを評価したいと思います。
杉並区と農村との共生事業について、具体的な検討を始めようとされていることを歓迎します。このたびは青梅市との交流も始まるとのこと、こちらも相手方もハッピーになれるような提案を期待します。またこれを機会に、農のもつ多面的な価値を尊重し、消費者であると同時に生産にも関与する意識が区民の中に広まることを願っています。
商店街活性化事業について、申し上げます。まちのイメージを決める大きな要素の1つは商店街です。周辺の住民は商店街が元気であってほしいと願っていますが、現実には、肉・魚・野菜の生鮮三品を扱う店がシャッターを下ろし、代わってチェーン店が出店され、ただの通路と化してしまっている商店街も存在しています。それを、がんばれ、と国や東京都からの支援を受けながら、イベントなどを開催して集客努力を行っているところですが、果たして商店街は元気になったのでしょうか。逆に、イベントをこなすのに精いっぱいで、終わった後は元気どころじゃないという声も聞きます。補助金適正化審査会の意見にもあるように、これまでの補助のあり方、活性化の評価などを検証する時期に来ていると思います。かといって、補助金を切れば地域の商店街が急激に悪化することは目に見えています。助成する条件に、周辺住民と知恵を出し合うことを条件づけてみてはいかがでしょうか。
空き店舗活用事業は実績がないとのことでした。家主にとっては、空き店舗を貸すとなると、出入り口やトイレを別にしなければならないという問題がネックになっているようですが、業種に限定枠を設けている点も障害になっています。この限定枠は外すべきです。やる気のある事業者を誘致し応援する商店街、それを区は補助金で応援する、という構造にできないでしょうか。
エコ商店街はいかがでしょうか。アーケードに太陽光パネルを張り、住民が夜間、通行する時の電力を生み出す、JRの高架に降った雨を貯めて、駅前や商店街のフラワーポットの水やり、夏の夕方、消防団と協力して放水訓練という名目で打ち水大会など、地域貢献型商店街をめざす。それを応援する区、という構造はいかがかと思います。ぜひ区からの提案をご検討ください。
環境対策は、たとえ温暖化の犯人が何であれ、100年後に後悔しない施策をいま、迷わず講じることこそが重要です。区は環境基本計画の改定を準備されていますが、杉並100年の計にぜひ環境施策の推進を加え、遠きを見据えて地道にとりくんでいただきたいと思います。
ご長寿応援ポイント制度について申し上げます。高齢者が地域で元気に活動できるよう応援する仕組みですが、他の自治体が福祉関連のボランティアを対象としているのに対し、当区では環境・防犯などに広げていること、基金に寄付できるしくみとしたことはよいと思います。ただ、生きがい活動も対象とするのであれば、参加するだけの高齢者に加えて、すでに目標を持ってイベントを企画する側にいる高齢者にも頑張れと後押しする意味でポイントがつくようにすべきではないのでしょうか。ぜひお考えください。
昨日、突然降ってわいたように提出された補正予算案は、今議会で最も多くの質疑がされた、保育に関する予算措置でした。力づくともいえる異例の提案ではありますが、それほどに多くの区民からの要望とあれば、区の決断に感謝こそすれ、反対するものではありません。
ただ、量とともに大事なのは保育の質です。今回作成いただいた資料によれば、子どもひとりに投入されている区の経費が、区立保育園は2,321,000円、私立認可保育園が1,629,000円、認証保育所1,282,000円、グループ保育室は986,000円となっています。グループ保育室がこれほどに低く抑えられているのは、区の支払う委託費のほかに保育料収入があるからですが、利用者に配慮した設定である分、事業者にとっては入りの少ないことになっています。事業者といっても、既存のグループ保育室は、地域の子どもたちは地域で保育する、という熱意あふれる育児経験者が集まって、食事や遊びに気を配り、行きとどいた保育を提供して保護者から高い評価を受けています。
ところがこの補正措置では、保護者にとって負担軽減であっても事業者には還元されません。家庭福祉員については、保護者の負担軽減ではなく保育提供者への増額となっていることと比べても、改善が図れないものかと思います。グループ保育室の人件費アップは保育の質の確保でもあります。検討を望みます。
学校図書館への司書配置が不十分ながら実現されることは、大きく評価しております。それだけに、待遇についてなど厳しいことを申しました。学校図書館に専任司書の配置を求める動きはいま全国に広がりつつあるなかで、杉並区の取り組みは他の区や自治体からも注目されています。というのは、すでに先進的に配置されているところでも、その待遇は不安定な雇用形態となっている場合がほとんどだからです。しかしだからといって、杉並区がこのような緊急雇用としての位置づけに満足してよいことにはなりません。学校司書の処遇をどうするのかということは、図書教育に対する区の見識が問われているといっても過言ではありません。継続した配置と適正な処遇を追求してくださるようお願いいたします。
教育施策に関連して、2点だけ申し上げます。1点目は幼稚園・保育園の漢字教育についてです。遊びながら漢字に触れさせるとのことですが、そうはいっても子どもからほかの遊びの時間を取り上げてしまっていいのだろうか、と心配です。言葉を聞く・話すという「ことばの教育」には賛成ですが、漢字は学校に入学してからで十分だと思います。
最後、2点目は教育基本条例等について。教育立区が提唱された2004年に初めて提案されてから5年近く経過していますが、この間、私は区の教育理念に子どもの権利を保障するための法的根拠となるものがもしできるなら大いに賛成したい、と一貫して言い続けてきました。具体的には、子どもの最善の利益とすべての子どもの学ぶ権利、参加、意見表明の権利の保障、また現場重視の視点、マイノリティーへの配慮、などです。
今年は、「児童の権利に関する条約」すなわち「子どもの権利条約」が1989年に国連総会で採択されてからちょうど20周年に当たります。日本が批准した1994年からは15周年であり、記念すべきこの節目の年に、「子どもの権利条約」にのっとった条例ができないものでしょうか。改めて今回も要望し、区議会生活者ネットワークの意見といたします。