私は、区議会生活者ネットワークの一員として、地域自治について、プラーヌンクスツェレ(市民討議会)について、チャイルドラインについて、以上3つの項目について質問いたします。
いま国会では、国民の生活より党議党略が優先するような状況ですが、国づくりの理念を推進する土台として「行政刷新」とならんで「地域主権改革」が位置づけられたことは、分権を勝ち取ることをテーマの一つとして活動している生活者ネットワークとして、これが一歩前進する力になると期待をもっています。と同時に、この動きを現場である地域から、確かなものにしていく必要を感じています。
区長の選挙公約のひとつは「区内分権の推進と地域ごと予算の創設」ですが、その実現のためには、これまでの区の地域内分権の取組みについての総括が必要と考えます。区における地域内分権についての議論は、「地域内分権の推進に向けた研究会」を庁内組織として設置し、06年、地域自治組織のモデルとして地区教育委員会を提案するなど、試行錯誤を重ねてこられました。最初の質問として、これら一連の取組みについて、区長の見解をうかがいます。
結局、地区教育委員会の具体的検討には至りませんでしたが、区では、その後08年「集会施設等運営協議会」のあり方について庁内で検討が行われました。出された報告書には「地域団体のネットワーク化と自治型コミュニティ形成をめざして」とサブタイトルに明記され、地域区民センターを拠点として地域の自治を展望していこうとする視点に共感しました。そこで09年第1回定例会議会での一般質問にとりあげましたが、具体化に向けた実行策は示されませんでした。
しかし、先ごろ町会・自治会、NPO、地域区民センター協議会が一堂に会する場として、すぎなみ地域大学とNPO支援センターの企画により、初めて開催された「地域活動団体交流会」は、先ほど述べた「地域団体のネットワーク化と自治型コミュニティの形成をめざす」という、あり方検討の報告書の内容にそったものと感じました。この理解でよいか、区の見解をうかがいます。
地域施設等運営協議会は「地域区民センター協議会」と名称が変わり、今年度より事務局体制も変わりました。地域活動係を区民センターの中に移し、従来の業務のほかに区民センター協議会の事務局も担うようになっています。この目的は何でしょうか。また、1年弱ではありますがやってみての成果と課題をどのようにとらえておられるか、おうかがいします。
「地域活動団体交流会」には70もの団体が参加したと聞きました。この開催目的、参加を呼びかけた団体など、概要はどのようなものだったのでしょうか。また実施当日の参加者の声などお示しください。併せて、開催結果についての区の見解をうかがいます。
この試みを今後継続し発展させていくべきと考えます。2回目以降の会の開催予定はいかがでしょうか。またその場合、会のもち方は地域別、テーマ別などいろいろ考えられるものの、地域の課題を地域で解決できるような自治型コミュニティを育てていくためには、地域ごとの開催が必要と考えます。区のお考えはいかがか、うかがいます。
このたびの初回は地域大学とNPOセンターの協働による開催でしたが、今後、地域ごとに開催されるとすれば、地域センター協議会がその中心となってゆくべきでしょう。また参加団体としてケア24や児童館などの福祉関連施設や、学校、図書館などの教育関連施設、商店会なども当然ながら参加が望まれます。またNPOなどの市民活動団体の参加も不可欠であるため、NPO支援センターもかかわっていく必要があると考えます。区のお考えはいかがか、おたずねします。
「自治型コミュニティを形成する」という考え方は、町会・自治会にとっては、これまで続いてきた地縁組織というあり方に加えて、もっと幅広い地域の機関や団体との連携を図るという発想の転換が必要とされるのではないでしょうか。「広報すぎなみ」2月11日号1面の町会・自治会特集では、従来型の発想に基づいた編集にとどまっていると感じましたが、地域のNPO等の市民活動団体との交流・連携を促すべきと考えます。この、自治型コミュニティという考え方に立ったとき、いまの町会・自治会が抱えている課題は何か、その課題をどのように克服していこうとされているのか、区の見解をうかがいます。
その意味からも、このたびの予算で提案されている町会掲示板の改修費用助成の増額については、せっかく増額するのであれば、地域の自治を担うメンバーであるNPOなどの市民活動団体もイベントなどのお知らせを掲示できるようにすべきと思います。そのような双方の関わりがあってこそ、地域での連携も促進されるものと考えます。うかがって、次の質問に移ります。
つづいて、プラーヌンクスツェレ(市民討議会)について質問いたします。「プラーヌンクスツェレ」というのはドイツ語で、英語でいうと「プランニング・セル」、ドイツで考案された、市民参加のひとつの手法です。これを直訳した日本語は「計画細胞」ということになりますが、日本での実施には一般的に「市民討議会」という言葉があてられ、最近自治体での実践例がひろがりつつあります。それは、どの自治体も「新しい公共」を実体としてつくっていく必要に迫られる現在、量・質ともにより高度な市民参加が求められているからであり、その意味でこのプラーヌンクスツェレに可能性を見出しているからだと思います。
具体的な説明は後ほど述べることとし、この項の最初に区の現状を見てみたいと思います。
昨年11月に実施された基本構想アンケートの結果が公表されました。5,000通近い回答が寄せられたことと併せ、「協働の地域づくり」について回答者の8割以上の人が「参加したい」と答えていることに、私も驚くとともに、杉並区民の積極性を誇りたい思いです。区民の区政への関心の高さがうかがえます。
ところで、区は自治基本条例に基づき区民の参加を進めてこられ、09年にはパブリックコメント条例も制定されました。しくみをつくることに関して、区が積極的に取り組んでこられたことは承知しています。しかし区のとらえる区民参加の枠が限定的であり、区民に対する信頼感がいま一つと感じているのは私だけでしょうか。区政への区民の参加のあり方について、これまでの区の取組みをどう評価し、今の課題をどうとらえておられるか、最初の質問としておうかがいします。
再びアンケート結果に戻りますが、回答者は男女比が4対6、年齢は60代以上が約7割であり、年代層の偏りが見られました。介護や医療問題が「10年後に必要なこと」の1、2位に挙がったのは当然と思われます。アンケート方式は「意思ある人」の意見のみが引き出され、サイレントマジョリティの声を拾うことはできないしくみです。また、一方的に「意見を聴く」というだけのアンケート調査には、意見を返し・返されるやり取りを経て議論を深めることは望めませんから、限界があるわけです。
基本構想審議会の中でも委員として述べたことですが、今後、他の年代層、とくに回答者の10%に満たない30代以下の人たちの声を拾う努力をしなければなりません。それには、アンケートとは別の市民参加の工夫が必要なのではないでしょうか。
市民参加の新しい手法といえば、外郭環状道路の「必要性の有無から議論する」として何年もかけてPI協議会からPI会議、さらに地域PIへと名前を変えながら続けられてきたPI(パブリック・インボルブメント)を思い浮かべる人も多いと思いますが、ここで提案したいのは、プラーヌンクスツェレです。パブリック・インボルブメント、すなわち住民参画とは名ばかりの、賛否の議論がかみ合わないままに終始した経過を私も傍聴席から見てきてがっかりさせられ、「あれはよかった」と評価する声を聴いたことがないPIですが、実際に見たり関わったりした人の事後評価の高いのがプラーヌンクスツェレです。
プラーヌンクスツェレが市民参加の新しい手法として注目を集めているのは、住民基本台帳などからの無作為抽出によって呼びかけるため、参加するかしないかは呼びかけられた人の自由意志ではあるものの、まんべんなく多様な市民の参加が期待できることです。また有償であるために参加者の責任感がある程度確保できること、少人数による密度の濃いグループ討議、討議に臨む際に必要な情報提供を受け準備が保障されること、参加者の投票による決定、などを特徴としています。しくみの設計は裁判員制度に似ていると考えればわかりやすいかもしれません。
新宿区でも昨年、自治基本条例の制定にあたりプラーヌンクスツェレの方式が採用されました。この実績では、参加者の属性は20代14%、30代16%、40代14%、50代14%、60代22%、70代16%と、極端な偏りがなく、幅広い年齢層からの参加が得られています。討議の企画運営はプロポーザルにより選定されたNPOが受託し、事前準備から当日の進行を事務局として担当しました。
杉並区の基本構想づくりは、いま緒についたところです。まちづくりへの参加意識の高い杉並区民には、試してみる価値のある手法だと思います。策定に至るまでのプロセスにおいて、この手法を取り入れてはいかがでしょうか。お考えをうかがいます。
さて基本構想づくりに関連して最後にもう1点、おたずねしたいことは、10代の子ども・若者の声を聴き出す努力が別途、必要ではないかということです。子どもも地域社会を構成するメンバーですから、意見表明の機会が設けられなければなりません。その場合はプラーヌンクスツェレの手法によらない、大人とは別枠で、区の側から子どもの中に入っていくような工夫が必要だと思います。10代の子どもの基本構想づくりにおける子ども参加について、区の見解をおうかがいして、3つ目の項目、チャイルドラインについて質問いたします。
このチャイルドラインも、子どもの声に耳を傾けるという、子どもの権利にかかわる問題を提起したいという思いで、とりあげるものです。
どの子どもも、生まれながらにして「その子らしく」成長することができる、その権利がある、という「子どもの権利条約」の理念から除外された子どもが、残念ながら日本には少なくない状況です。現時点で高校の無償化から朝鮮学校だけが排除されている問題はもちろん、虐待により死亡する子ども、いじめを受けて自ら死を選ぶ子どもが後を絶たないことがその証左です。いたましい事件の背後には、その一歩手前の状況におかれている子どもたちの存在があります。また、少年犯罪が低年齢化のうえ増加しているかのようにいわれますがそのような事実はなく、むしろ子どもが被害者となる事件こそ増加の一途をたどっていることに、もっと目が向けられなければなりません。
被害者となる子どもをつくらないため、子どものSOSを受けとめるしくみが十分に機能しているか、点検する必要があります。
当区では、子どもの声を電話で受けとめるおもな機関として「ゆうライン」があり、学校にかかわる領域に関してもさまざまな機関が電話相談を受け付けています。これらの区の取り組みが果たしている役割と、これまでの総括を区はどうとらえておられるか、うかがいます。
「ゆうライン」は子ども家庭支援センターの事業のひとつとして、センター内に専用電話が引かれています。2010年度の実績は、大人からの相談件数1,213、子どもからの相談件数108とうかがっています。そこで、「ゆうライン」に関連して3点おたずねします。
1点目、電話をかけてくる子どもの年齢分布はどのようになっているか。2点目、子どもからの相談の内容はどのようなものか、件数の多いのはどのようなことか。そして3点目、これらの内容から察知される、子どもが抱える・子どもを取り巻く問題を区はどのようにとらえておられるか。以上、あわせてお答えください。
さて、それにしてもゆうラインの年間の相談件数108は、多いとはいえません。ゆうラインの受付時間帯については私たちも要望し、夜7時までの延長が実現したことは評価いたしますが十分とはいえません。また行政が実施する相談事業は、たとえ秘密厳守をうたっていてもアクセスするのにハードルが高く、一部の事業は私立学校に通う子には有効ではありません。
ここでご紹介する、民間NPOが運営するチャイルドラインは、「ゆうライン」のように相談を受けて問題解決の方法を追求するというより、子どもによりそい、気もちを受けとめる電話受信システムです。みずから自覚して発するSOSも、無自覚なりに発せられるメッセージも、子どものまるごとあるがままを受け入れる場が、チャイルドラインです。
1998年に世田谷で実験的に始められ、昨年3月31日現在、39都道府県、68団体で実施されるまでになりました。09年の全国統一フリーダイヤル導入により、2010年1月から9月までの9か月に、全国で延べ12万3千件、東京都内ではその10%にあたる1万件の着信がありました。
その中には、深刻な悩みを打ち明ける子もいますが、すぐ切れたり、無言だったりが半数近くあり、一言やお試しが2割で、会話が成立するのは3割に過ぎません。それでも、無言や一言の向こう側にだれかがいて受けとめてくれる、電話を通して人とつながっていることで自分の居場所を確認できる子にとっては、どんな声が応答するのか確認するだけでも、心の安定を保つために必要なツールと言えるでしょう。別の見方をするなら、そうしなければいられない子どもの孤独が見えるはずです。
09年度の集計では、電話をかけてくる子の男女・年齢別でいえば、男子高校生が23%で最も多く、男子の年齢不明が21%、これに比べて女子は小学生が13%で最も多く、女子高校生は10%となっています。会話が成立した電話の内容は、男子では性に関することが26%、女子は人間関係が23%で1番多く、2位は男女いずれも雑談・話し相手となっています。雑談のできる場であるということが重要です。たわいない雑談を何度かへてようやく、虐待を受けているというようなことを打ち明ける場合があるからです。
電話の「受け手」と呼ばれるスタッフは、子どもが自覚のないまま性的被害・性的虐待を受けている事実がわかったとき、本人が被害を認識するように、よりそって対応します。子ども自身が問題のありかを認識して解決を求めてくる相談とは違って、本人に自覚がなくてもかけられるチャイルドラインは、子どもにとって「話を聞いてくれる」「自分を受けとめてくれる」貴重な窓口になっています。
子どもからそのように信頼を得てきたのは、「ヒミツをまもる」「どんなこともいっしょに考える」「名乗らなくていい」「切りたいときは切っていい」という4つの原則が貫かれてきたからであり、非営利の民間組織であればこそできたことといえます。
そこで質問です。このような活動について、区の評価はいかがでしょうか。うかがいます。
チャイルドラインは市民のボランティア活動により運営されていますが、普及・啓発には行政の支援が欠かせません。当区でもチャイルドラインのPRカードが、教育委員会をとおして学校で子どもたちに配布されています。区立小学校全校の4年生と6年生を対象に、合計2,886枚、中学校の全学年生徒に6,409枚、合計12,260枚が昨年秋に配られました。(カード実物と拡大版を示す)
杉並区内にはチャイルドラインの活動組織がないため、これらは中野区内の活動団体が負担し、中野経由で配られています。杉並区内の子どもがかけるチャイルドラインへのフリーダイヤル電話は、他地域のボランティアが受け、全国組織であるチャイルドライン支援センターが通話料を負担しています。
フリーダイヤル導入はアクセス数を飛躍的に伸ばしましたが、同時に担い手側の経費負担も大きくしました。この事業にかかる経費はすべて担い手側が負担するケースがほとんどであるため、どこも苦しい経営状況を強いられています。「受け手」のスタッフは無償であるばかりか、運営費も自腹を切って活動を支えています。場所の確保、電話の設置、受け手の研修費、先ほどのPRカード代をふくめ普及・啓発にかかわる経費など、通話料以外はすべて持ち出しで活動が行われます。最大の負担は場所代で、活動継続が困難になる原因の多くが設置場所の家賃の支払いです。
チャイルドラインの事業は、行政が介入しないことで活動の独立性が担保されることは確かです。けれども、これを子どもにとって必要なしくみと評価するなら、活動に対する公的な援助の手が差しのべられるべきではないでしょうか。
実はいま、杉並区内でもチャイルドライン活動組織を立ち上げようという動きが始まりつつあります。現在16時から21時までが受け付け時間帯ですが、日曜日は活動を休みとしている地域が多いため、「かけてもつながらない」子どもが月曜から土曜日までは約20%から30%であるのに対し日曜日は60%になります。杉並での活動が実現し日曜日でも受け付けることになれば、この状況を改善することができます。
もしこれを区が支援すれば、それはこの動きを進める力になり、間接的にでも区のシステムでは拾えなかった子どものSOSや子どもを取り巻く問題を把握できることにもなります。正しい現状認識は行政ニーズを導き出すために欠かせません。子どもの最善の利益を追求するために、区はこの動きを支援すべきと考えます。いかがでしょうか。最後の質問として、おたずねします。
タイガーマスク、そして伊達直人の贈り物は、自分の名誉のためでなく誰かの幸せのために何かをしたい、という多くの心ある人の気もちを目覚めさせ、これが日本にも寄付の文化が根付くきっかけになるのかもしれない、という期待を抱かせてくれました。子どもの権利を守ろうとする市民の活動が継続するためにも、善意の寄付がもっと気軽に集まり、生かされるような社会にしていきたいと考えつつ、私の質問を終わります。