第3回定例会一般質問 2024.9.12 奥田雅子

区議会生活者ネットワークの奥田雅子です。

「高齢者の在宅生活を支える取組について」質問します。

今年度から杉並区高齢者施策推進計画と共に、そこに包含される第9期介護保険事業計画がスタートしました。杉並区の高齢化率は21%前後を推移していますが、65歳以上の高齢者人口は今後、年々増えると推計されています。高齢者施策推進計画によれば2023年1月1日現在、65歳以上高齢者120,191人のうち高齢者単身世帯は43,444人で高齢者人口の36.1%、高齢夫婦のみ世帯も21,061世帯で35%となっています。また、2040年には単身世帯で約59,000人、高齢夫婦のみ世帯は約57,000人に増加すると見込まれています。そして、約7割の人が在宅生活を送っており、今後、住み慣れた自宅で高齢者の暮らしをどのように支えていくのかが最大の課題だと感じています。

そんな中、今年度からの介護報酬改定では全体では1.59%+になったものの、こと訪問介護の基本報酬はマイナス2.0~2.3%となり、衝撃が走りました。訪問介護事業が黒字だからという理由で、十分な処遇改善加算を付けたから実質アップだと厚労省は説明しました。しかし、処遇改善加算は文字通り、職員の給料アップに対して使うためのお金であり、事業所に直接プラスにはなりません。事業所の経常経費や経営を支えるのは基本報酬であるはずです。しかも、たとえ処遇改善加算をしっかり得たとしてもアップにはならないという試算も出ています。訪問介護で黒字になっている多くはサービス付き高齢者住宅などに併設する訪問介護事業所で、同一建物の中をぐるぐる回れば効率的で一日に多く回れるという利点があります。一方、地域の中を自転車で10分20分と時間をかけて一軒一軒回る事業所は往復の移動時間は事業所負担になるなど、まったく事情は違ってきます。それを同じ枠組みで設定すること自体に無理があると感じています。

コロナ禍で介護の現場は疲弊しきったところに追い打ちをかけるような報酬改定は直ちに撤回すべきだと考えます。でなければ、地域に根差し、コロナ禍で不安や恐怖を覚えながらも、介護を必要としている高齢者のもとに通い続けた比較的小規模な事業所が倒産・撤退を余儀なくされているのではないかととても心配です。国は事業所の大規模化を狙っているようですが、ケア労働は効率で計ってはいけない分野だと思います。ただでさえ、介護従事者の不足が2040年には57万人、東京でいえば約7万6千人不足すると厚労省は推計しているにも関わらず、この改悪はどう考えても納得のいくものではありません。介護従事者が不足すれば、再び家族介護へと回帰していくことは必至で、この間取り組んできたケアラー支援の観点からも看過できない問題です。この危機的状況において、今後増え続ける高齢者が住み慣れた自宅で生活を成り立たせていくためにはどのようなサポートが必要かといった観点から質問していきます。

・先ず、この報酬改定について区はどのような認識を持っているのか伺います。

・昨年の第4回定例会の一般質問でも高齢者施策推進計画について取り上げ、その中では訪問介護事業所の閉鎖、倒産は新規開設の数を上回っていました。2023年度の閉鎖倒産数と開設数、2024年度8月までの状況について伺います。

・杉並区では必要なヘルパー数を何人と想定しているのか、その数字に見合った体制が図られているのか確認します。

現在、訪問介護事業に特化した調査を事業所にご協力いただいて実施しています。戻ってきた回答では、どこも人員不足が課題として挙げられ、依頼を断っている実情がうかがえ、経営的にも厳しい状況が見られました。ケアをやりがいのある仕事として選んでも、賃金が低いために少しでも良い条件の事業所に移り変わる現象も起きており、ホームヘルパーの仕事は継続しても、一つの事業所にいるのは5年未満が44.1%と半数近いという数字もあります。事業所側から見れば雇用の不安定化、厳しい経営状況につながっていることが推察されます。

・区では今後の在宅ケアを持続可能なものにしていくためには訪問介護現場の状況を把握しなければ適正な施策を展開していけないと思います。区内140以上ある訪問介護事業所の実態把握が必要だと考えますが、悉皆調査は行っているのか確認します。

・居宅介護支援事業所についても1点伺います。

利用者の状況を把握し、その人にあったプランを作成するのは主にケアマネジャーの仕事ですが、先も触れたように訪問介護事業所から断られるケースも増え、そのために代替事業所探しなどの負担が増えているのではないかと推察しています。居宅介護支援事業所の閉鎖が増えており、ケアマネ不足によりケアマネを複数から選べないと言った問題も生じているとの声も聞こえますが、区はその実態をどのように把握していますか、お聞きします。

次に、介護予防・日常生活支援総合事業(以下総合事業)について特に訪問事業について伺います。総合事業は2015年の介護保険法改正を受けて2017年より杉並区としてのサービスが開始しました。

・この総合事業については各自治体の裁量や工夫がされていると思いますが、杉並区として、この総合事業をどのような考えで進めているのか伺います。

・介護予防・生活支援サービス事業の中で、介護予防訪問事業と自立支援訪問事業があり、利用実績もだいぶ開きがありますが、その二つの事業の違いや特徴について伺います。

・この間、この総合事業を行ってきて、どのような効果が得られたのか、この事業の成果と課題について伺います。

・総合事業に限らず、介護全般で言えることだと思いますが、生活援助を丁寧に行うことは、その人のQOLを維持し、できるだけ機能低下を遅らせるという点でもとても重要なサービスだと考えています。しかし、働く側からすると、生活援助は掃除・洗濯・買い物・調理などハードワークであり、その利用者の状態の小さな変化にも対応していくなどのスキルも必要とされますが、報酬は身体介護よりずっと低く設定されています。大手の事業所は生活援助はやらないところが多く、その分、小規模にしわ寄せがきているという話も聞きます。このような実情に対する区の認識を伺います。

私は地域の中でちょっとした困りごとをお手伝いするお互い様のたすけあいの活動に参加していますが、介護保険のサービスだけではそのお年寄りの暮らしが成り立っていないケースを多く見ています。介護保険制度が在宅支援を保障するものになっていないのです。私たちのように介護保険では使えない隙間のサポートがなかったら、このお年寄りたちはどうされるのだろうと思います。特に高齢夫婦のみ世帯やひとり暮らしの人は80歳を超えたあたりから日常的な暮らしのサポートが必要になります。認知症を発症していればなおのこと、放っておけない人が地域の中にはたくさん存在していることを認識する必要があります。要介護認定率も80歳を超えるこの時期を境に一気に増えていくこと、その数値が前年よりも増えていることが今年度版の「すぎなみの介護保険」からもわかります。経済的に余裕のある世帯であれば自費のサービスと組み合わせて生活を成り立たせることはできるかもしれません。しかし、そうでなければひとりの人の暮らしをを支えることが容易ではないということを実感しています。私たちのもとにはケア24から紹介されて相談が来るケースが多く、専門的な資格がなくてもできるサポートであれば、ほとんど断ることなく、それも早いときは30分後には依頼主に到着するなど、ケア24や利用者から頼りにされる存在となっています。しかし、いずれ限界は来ると考えており、私たちのようなボランタリーベースの取組が地域の中にいくつもあるのが良いのか、それとも別のしくみが必要なのか、住民を巻き込んだ議論をすることがそろそろ必要ではないかと考えています。

・地域の中に気軽に立ち寄れて、「ちょっと困っているんだけどどうしたらいい?」といったようなやり取りができる居場所の存在は重要です。地域の人と歌を歌ったり、おしゃべりしたり、会食したりするなどのサロン活動は孤立を防ぎ、お互いに気にし合う関係を身近につくる場でもあります。また、外出できない人には簡単なお手伝いをしに出向くなど、その人の暮らしの支えの一助となる取組みに対して、区はどのように認識していますか、見解を伺います。

・区では生活支援体制整備事業の実施ということで第1層・第2層協議体が連携して住民主体の生活支援サービスや通いの場などの支え合いによる活動の開発、担い手の養成、多様な活動主体間の交流等を進めるとありますが、この認識は地域の現場で理解され、共有されているのでしょうか? 支え合い活動の開発や担い手の養成を実際に達成できている第2層協議体はあるのでしょうか伺います。

・また、地域住民による身の回りのお手伝いなどの生活を支援するサービスを行っている団体について、区はその活動内容を把握しているかどうか伺う。

・生活支援体制整備事業の中で地域でのささえあいの活動をしている団体やグループと具体的なしくみづくりについて意見交換する場も必要だと考えますが、区の見解を伺います。

次に、認知症支援策について伺います。

超高齢社会は認知症社会であると言っても過言ではありません。要介護者の要因は認知症が第1位に上がり、介護保険利用者全体の約8割は何らかの認知症があるそうです。しかし、認知症の人にとって一番見守りが必要な初期・中期に相応しいサービスがないという問題があります。介護保険の要介護認定は身体介護重視で認知症に対応できていないという指摘を昨年の一般質問でもさせていただき、高齢者担当部長からの答弁は「超高齢社会に向けては国を挙げて様々論点を整理の上、今後の各種制度等のあり方を議論、検討していくべきものと考えている。その意味で、認知症基本法の施行が大きな契機になることを期待しているところ。区としても新たに策定する高齢者施策推進計画に基づく取組を着実に推進していくことが重要だと考えている」とのことでした。

認知症基本法ができたことで、認知症に対する社会の意識がこれまでのネガティブからポジティブに変わっていくことは歓迎するものです。しかし、高齢者施策推進計画に内包された認知症施策推進計画からはいまひとつ具体的な認知症本人への支援の在り方が見えてこないと感じています。特に新たな取組はないように見受けられ、これまでの実績を見ても対応しきれているとはいいがたい状態だと感じています。

今回、認知症介護研究・研修東京センターの助言により認知症高齢者数の推計値が示されましたが、あくまで推計であり、具体的にどのようにして認知症の人とつながれるのか、医療機関との連携や介護事業所、ケア24、商店などとの連携が重要だと思います。

・区は認知症やその疑いがある家族を支えている世帯について、どのようなことを契機に把握するのか伺う。

・10月5日に区主催の「オレンジ・ランプ」の上映会があります。若年性認知症の方の実話に基づく映画で、この間、別の住民団体が2回区内で上映会を行い、いずれも大きな反響がありました。私も参加しましたが認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子さんが監修されており、上映会後に永田さんからコメントも頂きました。映画の中に登場するヘルプカードについては多くの観客が関心を示し、どこへ行けばヘルプカードはもらえるのかと何人もの人から聞かれたと主催者から聞きました。「助けて」と口で言えなくてもカードを示すことで伝えられる、認知症の人はさりげなく自らカミングアウトできる、そんなヘルプカードを自分の地域でも拡げていきたいという要望が出ていると聞いています。例えば「なみすけ」入の区独自のヘルプカードを作成して、認知症の人に留まらず、外出を促すツールとしてキャンペーンする等、普及してはいかがかと考えます。95%の人は助けを求められれば助ける、ところがそれに反して5%の人しか助けを求めない、求めることができないと聞いたことがあります。「助けて」と口に出して言うのはとても勇気がいることで、このギャップを埋めるツールがヘルプカードです。誰もが助け、助けられる、優しいまち杉並にしていきたいと思います。この度の区の認知症理解の普及啓発月間のチラシのテーマは『「わたしは認知症です」とあんしんして言えるすぎなみに』となっています。同感いたします。ヘルプカード普及についての区の見解を伺います。

・厚労省も推進しているピアサポーターによる本人支援について調べる中、「公益社団法人 認知症の人と家族の会」による2024年3月「認知症診断直後からの本人やその家族へのピアサポート活動について」の実態調査事業報告書を目にする機会がありました。この場合のピアサポートとは、認知症になった本人が他の認知症の人の話を聞き、お互いの体験を共有することで支え合う取り組みです。認知症と診断されてから実際の支援につながるまで、支援のない診断後の期間の平均が約1年1ヵ月というデータがあるそうですが、この時間を日本認知症本人ワーキンググループ代表の藤田和子さんは「空白の時間」と表現しました。素早くピアサポートの場である「集いの場」につながることは、同じ立場の人や支援者などに出会い認知症と向き合う前向きな気持ちになれるとの声も報告書には綴られています。それにはさまざまなピアサポート活動を地域の中につくること、医療機関などが診断と同時にピアサポート活動情報を本人に提供し、さらには情報提供だけでなく、一緒にそこに同行してくれるサポーターの存在も肝になるということで、ピアサポーター養成講座も必要です。杉並区で言えばチームオレンジがそういう場としてさらにブラッシュアップしていけたらよいのではないかと思いますが、改めてピアサポートという視点からの取組を確認していくことも必要ではないかと考えていますがいかがか見解を伺います。

・認知症介護研究・研修東京センターと協定を結んでいる杉並区だからこそ、このピアサポート活動などの事例を参考にしつつ、国の議論に先んじて、地域資源をネットワークし、認知症の方ひとり一人の顔の見える支援体制を構築してほしいと考えますが、区の見解を伺います。

・独居でも認知症になっても住み慣れた自宅で最期まで暮らすことができることを当たり前の社会にしたいとの思いは多くの人が抱いていることだと思いますし、私もその一人です。しかし、今の超高齢社会に制度が追いついておらず、このままでは、特に低所得の高齢者のみ世帯やひとり世帯の人たちを置き去りにしてしまうのではないかと危惧します。区が掲げている保健福祉分野全体を貫く5つの基本理念「人間性の尊重、自立の促進、予防の重視、支え合いの醸成、孤立の防止」を絵に描いた餅にしないために、区や事業者、介護・医療機関、区民が一緒に取り組んでいかなくてはならない課題だと考えています。最後にこの介護の危機をどう乗り越えていくのか、区の考えを伺って、私の一般質問を終わります。

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