決算特別委員会 意見開陳 2024.10.15 そね文子

区議会生活者ネットワークを代表し、2023年度杉並区一般会計歳入歳出決算、並びに特別会計歳入歳出決算について意見を述べます。
2023年度は5月に新型コロナ感染症の危険度が5類に引き下げられ、社会活動についても行動制限がなくなりました。ロシアによるウクライナ侵攻から始まった戦争は1年をこえても収束には至らず、さらに10月にはイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃したことに端を発し、イスラエルがガザ地区に大規模な空爆、地上戦を開始し、その紛争も長期化しています。世界の不安定な情勢に加え、円安が固定化し、エネルギーや食糧等の物価高騰は止まらず、区民の生活を圧迫しました。この年、過去最高に暑かった夏が今年はさらに暑い夏となり、だれもが気候危機を実感しています。1月1日に起きた能登半島の地震は復興に時間がかかり、やっと復旧した一部のインフラが9月の集中豪雨によって被害をこうむる事態になってしまいました。このような地震列島で災害が多発するなかで原発の再稼働、ましてや新増設など絶対にしてはなりません。

経済に目を向けると、国が見込んだGDP成長率、実質1.5%、名目2.1%は、実質1%と下回り、名目は5%と見通しを大幅に上回りました。

区政においては1年前倒しで総合計画・実行計画等の見直しが行われ、今年度改定されました。そして基本構想に基づき事業が進められ、前年度に引き続き物価高騰対策としての支援や、新たな課題や緊急性のある課題に対して8回の補正予算が組まれ、対応がなされました。

全体的な区財政の状況は、経常収支比率が80%をわずかに超えて80.7%となりましたが、公債費負担比率などからも健全であることが確認できました。また基金残高の総額は58億2,653万1千円増で過去最高となり、区債残高についても前年度比6億936万5千円増となりましたが、基金と区債のバランスは健全であると判断しました。

私たち区議会生活者ネットワークは、決算認定に当たり、基本構想に基づく総合計画などが推進され、区民福祉の向上が図られたか、人権が守られる施策が進んだか、また持続可能な地球環境を未来に引き継げるかという視点で検討いたしました。

以下、主な課題について、決算特別委員会の質疑を踏まえて意見を述べます。

まず、防災・防犯についてです。

被害がなければ大きくとり上げられることはありませんが、震度5以上の地震は日本各地で起きています。昨夜も23区で震度3の地震があり、いつ起きてもおかしくない首都直下地震等への備えは区でも様々な分野ですすめられていますが、改めて自助・共助・公助の役割を発信し、地域での訓練を活性化させるなど、区民の防災意識の向上に資する取り組みを強化するよう求めます。また、学校防災井戸の修繕がなされたことは重要ですが、井戸水はいざとなれば沸かして飲料水にせざるを得ない場合も想定し、煮沸では取り除けないPFASなどの汚染について区内の防災井戸の水質調査の必要性を指摘しておきます。

次にまちづくり・地域産業についてです。

阿佐ヶ谷駅北東地区ではこれまでのまちづくりの取り組みを振り返り、今後の進め方を考えるための対話の場として、振り返る会やオープンハウスなどが行われ、これまでの溝を埋める努力がされたことは重要です。都市農業に大きな関心を寄せる私たちとしては、食料の供給はもとより、防災面やヒートアイランド対策など多面的な機能を持つ農地を守るため、農業者への支援や区民への農地の必要性への理解促進に取り組んだことを評価します。今後は農業者と区民の交流促進なども行い、多くの区民と共に農地を残す取り組みが行われることを求めます。

次に環境・みどりについてです。

区長をリーダーとした気候危機対策推進本部が設置され、全庁的に取り組みが進むことは、長年環境問題に力を入れて取り組んできたものとして歓迎するところです。他会派の質疑から区役所内で行われる会議でペットボトル飲料を控える取り組みが進んでいることがわかり、それを求めてきた立場として評価します。区民にも理解を広げながら継続していくことを要望します。太陽光発電が広く認知されていることに対して、省エネ対策として優れて有効な太陽熱利用については理解が広がっていないのは残念です。お湯をたくさん使う高齢者施設など効果が高い施設での利用が広がるよう、情報提供に力を入れることを要望します。

次に健康・医療についてです。

新型コロナワクチン接種では、国内で大変な被害が発生し、それに問題意識を持った医療機関や自治体が、市民に対して情報提供を行うようになってきています。ワクチンのデメリットの情報をホームページにわかりやすく掲載し、真に区民が選べるように提示することを要望いたします。HPVワクチンを男子にも助成することを求める質疑が行われました。しかし、効果が期待できるとされる肛門がんの内の扁平上皮癌は非常にまれながんであり、好発年齢は60歳以上、罹患率は100万人に2人という低さであり、予防接種を行う意味があるとは考えられません。また男子の接種によって、女子の子宮頸がんや異形成を防ぐことができたという医学的根拠(エビデンス)はありません。2024年3月14日に行われた厚生科学審議会予防接種ワクチン分科会の資料「HPVワクチンの男性接種の費用対効果」では、HPVワクチン男性接種について、費用対効果が無いとしています。このことから東京都が税金を投入して補助を行うことは税金の無駄づかいであり、区が男性接種への助成を行っていないことは極めてまっとうな判断で、その姿勢を継続することを求めます。

次に福祉・地域共生についてです。

当該年度4月に「性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例」が施行され、「杉並区パートナーシップ制度」が開始されたことや性的マイノリティ専門相談も開始され、誰もが自分らしく安心して暮らせる地域共生社会がさらに進んだことは評価できます。今後は、パートナーシップ制度に事実婚カップルも対象に含めることが必要です。

また、高齢者の在宅生活を支えるしくみについては、独居や高齢者のみ世帯などの増加に伴い、公的な制度だけでは支えきれないことは明らかです。地域でのインフォーマルな取組に光を当て、それを担う地域住民の自発的な活動を区がしっかり支えていくことが必要です。

次に子どもについてです。

私どもが長きに渡り切望してきた子どもの権利条例の制定に向けて動き出したことは大変喜ばしいことです。様々な子どもの声を引き出し、積み上げながら議論が進められてきた「子どもの権利擁護に関する審議会答申」を受け、条例制定を確実に実現させていきたいと思います。また、「子どもの居場所づくり基本方針」の議論がすすみ、今議会に素案が示されました。現在残る児童館が存置され、今後も複合施設を前提としつつも中学校区に1館を整備していくこと、また、中高校生機能優先館の整備強化が示されたことは重要です。より多くの区民や子どもの声を反映させ、子どもの最善の利益が保障される居場所の実現に期待します。

次に学びについてです

インクルーシブ教育を進めるために、学校に作業療法士が入り、障害がある子が教室で過ごしやすくするための先生への支援などについて、これまでも求め、区は事例を研究するとしてきました。全国でも沖縄県や岐阜県飛騨市での取り組み、また岡山県は学童での取り組みが進んでいます。先進事例を研究し、モデル的に導入することを求めます。

当該年度不登校児童生徒の数は1105人と過去最多、前年度比216名増と急増しています。不登校対策として、教室に入りにくい子どものために、すべての小学校に校内別室指導の居場所が設置されました。しっかり予算を付けて、常時開催すること、そこで子どもを見守る人に対し研修を行うよう求めます。また、学校で不登校の子どもの保護者同士がつながり、必要な情報を得られ取り組みを求めます。

校庭を芝生化したところの年間の維持費がトータルで5900万円余かかっていることが明らかになりました。かねてから、芝生の養生期間に校庭を使えない問題やさらに膨大な予算がかかることから見直しを検討するよう求めます。一方人工芝は、海洋汚染になるマイクロプラスチックとなっているなど、課題が多いことから、更新時期には見直すことを求めておきます。

質疑の中でトース土工法について紹介しましたが、常に新しく有効な工法について研究し、取り組みを進めるよう求めます。

次に協働についてです。

公民連携プラットフォームの運用にWebサイトを活用し、様々な、地域活動の発信や交流会がもたれ、住民自治を進める取組みのネットワーク化が進むことに期待します。また協働推進基本方針に基づき、様々な切り口による取組が常に区民が主役で進められるよう求めます。

次に施設マネジメント計画についてです。

当該年度に施設再編整備の取組に対する検証結果が取りまとめられました。これまでの計画の進め方を再考し、計画策定段階から対話を通じて施設利用者や地域住民、運営事業者等の多様な主体と共に考えていくとして、名称も新たな「施設マネジメント計画」が策定されたことは重要です。施設にかかわる人たちが対立ではなく、共に同じ方向を向いて取り組んでいくことを望みます。

次に物価高騰対策についてです。

原油価格や物価高騰等に対して当初見込んだ約8億円に加え、地方創生臨時交付金などを活用し、住民税非課税世帯等物価高騰対策支援給付金の支給等を目的とした補正予算を計6回編成し、区民の暮らしに寄り添った対応がなされたことを評価します。

最後に会計年度任用職員についてです。この間、処遇については一定の改善がなされた点は評価します。今年6月には人事院が非正規公務員の公募試験をせずに再度の採用ができる回数の制限を撤廃すると各省庁に通知しました。このように国に大きな変化があったのは雇用年数の制限に課題があったからであり、区には欠かせない非常勤職員が安心して働ける環境になるよう、区も雇用年限を撤廃するよう求めます。

以上、評価と課題について意見・要望を付して、認定第1号2023年度一般会計決算、認定第2号国民健康保険事業会計、認定第3号介護保険事業会計、認定第4号後期高齢者医療事業会計について認定いたします。

結びにあたり、資料作成にあたられた職員の皆さま、公正公平な議会運営に努められた正副委員長にお礼を申し上げ、区議会生活者ネットワークの意見といたします。

 

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