私は生活者ネットワークの一員として、
インクルーシブな地域をつくる障がい者の就労支援について、1.「超短時間雇用モデルについて」、2.多様な居場所との連携について一般質問いたします。
国が定めた障害者基本法では、障がいの有無にかかわらず、国民誰もが互いに人格と個性を尊重し、支え合って共生する社会を目指し、障害者の自立と社会参加の支援等を推進するとしています。この理念の下、企業の障害者雇用の法定雇用率は年々引きあげられ、今年は民間企業が2.5%となり、40人以上の従業員がいる企業は1人以上の障がい者を雇うことが義務付けられています。これはもちろん歓迎すべきことですが、しかし、大企業は法定雇用率を達成するために特例子会社をつくり、障がい者はそこに集められて親会社の社員とは別の場所で働くという形が多くとられているという現実もあります。
11月17日に「障害者雇用ビジネス」を取り上げた東京新聞の記事によると、千葉県内で雇用ビジネスを行うある事業者が運営する約30棟のビニールハウスでは、製造業や保険、広告など様々な企業で雇われたという60人の障がい者が野菜づくりに従事していると言います。実際その人たちは雇われている企業とは一切かかわりを持たず、企業の本業とも無縁の農作業に従事しているとの話です。このような障害者雇用ビジネスを行う事業者は昨年11月時点で全国で32社あり利用する企業は1200社を超え、そこで働く障がい者は7300人を超えるということで、事業者にお金だけ払って安易に法定雇用率を満たそうとする企業が、採用から管理までを丸投げし、障がい者にとっては社員になることで高い収入が得られるメリットはあるものの、企業が本来の意味での雇用責任を果たしているとは言えない実態があることも知りました。すべてがこのようであるということではありませんが、国が目指すと言っている共生社会をつくることにはさらに突っ込んだ取り組みが必要な状況があります。
先日、杉並家族会が開いた学習会「超短時間雇用モデルと地域でのインクルーシブな働き方」に参加して、障がい者がその人の強みを活かして、地域で共に働く取り組みを学び、これは真にインクルーシブな地域をつくることに貢献すると思いました。他の議員からも要望が出されているところですが、私からもまず初めに一つ目の項目、超短時間雇用モデルについて、障害者の就労支援の状況と共に伺っていきたいと思います。
- 厚労省のホームページ、障害者の就労支援対策の状況によると、障害者の18歳から64歳の在宅者数は約480万人で身体が101万3千人、知的が58万人、精神が320万7千人となっています。2023年厚労省の障害者雇用実態調査では5人以上の事業所に雇用されている障害者の数は110万7千人で内訳は身体障害52万6千人、精神障害21万5千人、知的障害27万5千人、発達障害9万1千人となっています。精神障害の内就労者は近年増えているものの9.6%で身体障害の52%、知的障害4%と比べて就労率が低い傾向にあります。家族の方からは障害特性によって毎日9時から5時という就労形態が難しい状況にあるとうかがっており、法定雇用率によらない多様な雇用形態で就労が可能となれば、より多くの障がい者が就労によって社会参加ができると考えます。区の見解をうかがいます。
- 2024年4月には、障がい者や障がい児の地域生活や就労支援をより強化して、障がい者の希望する生活を実現することを目的に、改正障害者総合支援法が施行されました。障害特性により長時間勤務が困難な人で、一週間の労働時間が10時間以上20時間未満で働く重度身体障がい者、重度知的障がい者、精神障がい者を雇用した場合、特例的な扱いとして、企業の法定雇用率の算定の時に、5人としてカウントできることになりました。
この法改正によって、杉並区内で障がい者の就労については、どのような変化があったかうかがいます。
- 杉並区では就労支援の取り組みとして2012年、杉並区就労支援センターが開設され、ハローワーク、若者就労支援コーナーすぎJOB、ジョブトレーニングコーナーのすぎトレという3つの部門で、様々な利用者のニーズにきめ細やかに対応してきたと認識しています。障がい者の就労については杉並区障害者雇用支援事業団、ワークサポート杉並が対応することになっていますが、実際には杉並区就労支援センターのすぎJOBで「大人の発達障害」についての講座が継続的に開催されており、それを受講してからしごと相談を受けることで、これまでの生きづらさが発達障害によるものだったと気づきワークサポート杉並につながる人もいることをうかがっています。ジョブトレーニングを受けられる「すぎトレ」の面談からワークサポート杉並につながる人もいるということで、杉並区の就労支援センターは障がい者の就労支援を連携して担うことによって、当事者にとってよりよい就労支援が行われてきていると考えていますが、障害のある方への就労支援について、杉並区就労支援センターの取り組みや課題を伺います。
- すぎトレのジョブトレーニングは長い期間ひきこもっていた若者の生活リズムを立て直すことから就労体験をするところまでていねいに本人に寄り添った支援が行われています。またワークサポート杉並でも生活リズムを整えること、身だしなみや電話の受け方、軽作業など様々な支援が行われています。2023年に公表された内閣府が行ったこども・若者の生活実態調査から、15歳から64歳の生産年齢人口において推計146万人、50人に一人がひきこもり状態であることがわかりました。このような現状において、杉並区が取り組む支援は本当に求められていると思いますが、周知はどのように行っているのでしょうか、うかがいます。
- また、サポートを受けたい人が多くいることが予想されますが、あとどのくらいの人数を受けられるのか。待機などは出ていないのか。今後受けられる人数の拡大などは検討しているのか、状況をうかがいます。
- 先にも述べましたが、ここで先日、杉並家族会が主催した東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫教授の学習会「超短時間雇用モデルと地域でのインクルーシブな働き方」を取り上げたいと思います。
企業は障害者の法定雇用率を満たすためには週20時間以上、障害者手帳を持つ個人を雇用すると1カウントと算定されます。このため長時間働けない障がい者は福祉就労の「就労継続支援B型事業所」を選択せざるをえない状況が生まれます。
長時間安定労働が難しい精神障がい者や難病の人などにとって、毎日朝から夕方まで務めるという既存の日本型雇用は合わない状況がありました。
近藤教授が提唱する「超短時間雇用モデル」は東大の先端研が自治体と連携し、社会福祉法人などが中間支援事業者として企業の開拓や障がい者とのマッチング、採用後のサポートを行うのが特徴です。障がい者にとっては社会参加と所得向上につながりメリットが大きいことから、自治体の関心も高く、現在は川崎市、神戸市、岐阜市、渋谷区、港区、品川区で採用されています。
この超短時間雇用は、採用前に職務内容を明確に定義し、臨機応変に他の仕事をさせることはしない、身だしなみやビジネスマナー、接遇など、職務遂行に本質的に必要でないことは求めない、一週間に15分という超短時間から働ける、同じ職場で共に働くことなどがルールとなっています。
障害特性から人とのコミュニケーションが苦手だったり、Yシャツが着られなかったりする人が、臨機応変に違うことを求められたりせず、雇用主が必要とする決められたことだけを超短時間行うことで、障がい者は安心して働くことができます。一方、企業の側にとって超短時間雇用は、課題となっていることを中間支援の担当者が聞き取り、それを解決するための業務を切り出して、企業の課題解決のために働いてもらうので、企業にも障がい者にもメリットがあるウィンウィンの関係が生まれます。
具体的な事例をあげると、精神障害があり人とのコミュニケーションが苦手、かつ感覚過敏がありTシャツしか着たくないAさんは、週に数時間だけ他の社員と同じ部署で技術文書の翻訳にあたっていて、その部署の課長さんがとても助かっているというケース。また、知的障害のあるGさんは商店街のパン屋さんでパンの整形業務を週1時間担い、おかげで店主にとっては店舗に立ってお客さんと交流したかった希望がかなったというケースが紹介されました。
この超短時間雇用では、障がい者は雇用率の充足のために雇用されるのではなく「特定の業務を果たすことができ、職場を助けてくれる人材」として雇用され、時給は一般の労働者と同じ妥当な賃金が払われます。福祉就労の就労継続支援B型との併用ができるのも大きなメリットとなっています。
先に述べたように、障がい者が分けられた場所で仕事を行うというケースも多い中、このモデルでは同じ場所で障がい者も共に働くため、近所の店舗などで障がい者が働いていることが当たり前のインクルーシブな地域になり、本当の意味での共生社会をつくることだと考えます。障がい者の方は通勤がネックとなっていることもあり、多くが近所での就労を望んでいることからも身近な地域でできる仕事を増やしていくことで選択の幅が広がり、働く機会を得やすくすることにつながると考えます。
この学習会にはワークサポート杉並の職員の方、また障害者生活支援課の係長も参加していましたが、区はこの取り組みをどのように認識しているでしょうか、うかがいます。
ぜひ杉並区でも取り組んでほしいと思いましたが、まずは役所内で関係する部署の障害者支援、生活保護、困窮者支援、産業振興、企画、公民連携、広報などの担当者の方に近藤先生の話を聞く機会を作り、検討していただくことを要望いたします。
次に2番目の小項目、就労支援部門と居場所との連携について質問いたします。
- 私は以前、区内の児童養護施設に入所していた子どもが高校で不登校となり、就労は難しいから卒業と同時に生活保護を受けることになるという話を聞いて、厳しい現実に言葉を失いました。すぎトレやワークサポート杉並の情報が児童養護施設に伝わっていればなにか対処ができたのではないかと思いましたが、区の見解をいます。
先日、すぎトレの事業を受託しているNPO法人育て上げネットの方に、そこが運営する、若者たちの夜の居場所「夜のユースセンター」のこと、また同法人が運営するすぎトレと同じ事業内容のジョブトレについて話を聞く機会がありました。
夜のユースセンターは立川市で毎週土曜日の夜6時から9時にオープンし、生きづらさを抱えてなんらかの支援を受けている若者が支援者からの紹介で参加しています。ジョブトレに参加している若者も参加し、それが良い効果を生んでいるということでした。若者が自分らしく安心して居られる、寄り添い応援してくれる大人がいる、温かい食事が提供されるなどの居場所と就労支援を担う事業者が連携できると、相乗効果が生まれて就労という社会参加の選択肢が増え、就労を継続するためのサポートにもつながることを学びました。
- ワークサポート杉並では働いている人たちが集まる交流会などの余暇活動が行われているということですが、どのような内容で行われているのかうかがいます。
- 現在区では、公募プロポーザルでひきこもり当事者や家族の相談事業と居場所事業を行う事業者の募集が行われています。先に国の調査で、15歳から64歳の生産年齢人口において推計146万人、50人に一人がひきこもり状態にあることを述べました。
ひきこもり状態の人の多くが社会に出て何らかの就労経験をし、職場での傷つき体験が深刻なトラウマとなっていること、7割から8割の人が孤独・孤立感を感じていているということから、その人らしく安心して居られる居場所の存在は大きな意味があります。
杉並区で相談や居場所事業が実際に行われるのは来年4月1日からということですが、居場所と就労支援の連携も利用者の選択肢を増やすということから必要だと考えます。この居場所の目的と、就労支援との連携についての区の見解をうかがいます。
ただ、ここで断っておきたいのは、私はひきこもりの人の支援のゴールが就労のみという考え方ではありません。当事者がずっと家にいることに満足しているのであれば、家族がそれを良しと考えられるようになることが一つのゴールであるとも考えます。答えを限定したり急いだりすることなく、当事者の意思に寄り添い、一緒に考えていくという姿勢を持つことが支援の在り方ではないかと考えています。
- ウェルファーム杉並ではひきこもりの家族会の方が月一回居場所を開いていること、また当事者の会も開かれているということですが、その方たちと就労支援との連携や情報提供はどうなっているか最後に伺います。
どんな障害がある人もひきもこりの人も、その人の尊厳が守られその人の意思が尊重され、共に地域で暮らすことが当たり前のインクルーシブな杉並区をつくるために、私も力を尽くしていくことを申し上げ、質問を終わります。