第1回定例会一般質問 2024.2.16 そね文子

私は区議会生活者ネットワークとして、共生社会をつくるためのインクルーシブ保育・教育について一般質問いたします。

日本は2014年に障害者権利条約を批准し、障がいがある人も無い人も互いを認め合い、それぞれがその持てる力を活かし、共に生きる共生社会を創ることを標ぼうしています。

しかし、2022年9月に障害者権利条約に照らして、国連の権利委員会から日本政府に出された勧告には、精神科病院での無期限の入院の禁止や施設から地域生活への移行を目指す法的な枠組みづくりの他、障がいのある子と無い子が共に学ぶインクルーシブ教育の確立のため、すべての障害のある生徒が個別支援を受けられるよう計画を立てるといった対応をとる必要があると指摘されています。権利委員会が「分離教育は分離した社会を生む」「インクルーシブ教育は共に生きる社会の礎である」としていることはもっともだと考えます。

すべての人が互いを認め合う共生社会は誰にとってもやさしく生きやすい社会です。そのような社会をつくるためには、子どものころから障害がある子も無い子も共に過ごすことが必要だと考え、インクルーシブな保育と教育について質問いたします。

まずは保育についてです。区立保育園や認可保育園では障害のある子どもを受け入れているところも多く、そのような環境がおおむね確保されていると認識しています。ここで取り上げたいのは、医療的ケア児を含む障害のある子もない子も、また不登校の子どもも受け入れる形で一時預かりを行っている認可外保育施設についてです。そこでは子どもの発達について学ぶ保護者向けの学習会も行っており、その考え方にもとづいて行う保育の現場と学習会を両方見せていただきました。木をふんだんに使い家庭的な保育が行えるよう特別に設計を依頼して建てられた施設は、子どもが入って落ち着くための押し入れのような隙間があったり、随所に工夫が凝らされていました。少し長くなりますが、そこで行われていた保育の様子と体験させてもらったことをお話したいと思います。

伺った日は医療的ケアが必要な子どもが来ていて、看護師と作業療法士2人が担当されていました。そのほかには一時預かりで2歳までの子どもが数人、その日は学校に行かずにここに来た小学生も一緒に、善福寺公園に行って過ごしました。医療的ケア児のA君はアリを捕まえたくて看護師さんが虫かごを持ち、作業療法士さんがAくんを抱っこして公園に行きました。私はA君にありを見つけてあげたくて探しましたが、見つからず、でも落ち葉を掻きわけてダンゴムシを見つけて、手のひらにのせてA君の目の前に持っていきました。しばらく見ていると丸まっていたダンゴムシが体を伸ばし、仰向けになってなんとかひっくり返ろうと足をバタバタし出しました。誰かが手のひらに一緒にのせてくれたミミズも急にねずみ花火のようにくるくる手の上で飛び跳ね始めました。言葉を話さないAくんが、それを食い入るように見ているので、「持って帰る?」と聞くと、虫かごを指さして意思を示してくれました。Aくんがすごい集中力でその場を楽しんでいることが私にも感じられ、言葉は無くても一緒にいれば気持ちが通じることを体験させてもらいました。でも、考えてみれば子育てでは、話ができない子どもの思いをくみとり、その子の考えていることがわかるというのは多くの方が経験していることだと思いました。ましてやAくんと一緒に過ごす、まだ言葉が発達していない子どもたちは、まるごとAくんを認め思いを感じ取っているのではないでしょうか。

Aくんを抱えて作業療法士さんが階段を下りているとき、階段の下で他の子どもがまるでAくんを下から支えるように手を広げて待っている場面が見られました。Aくんがいることが他の子どもの成長や優しさを引き出すこのような場面はインクルーシブな保育だからこそ出会えるものだとのお話に強く心を動かされました。

この保育施設が行うインクルーシブ保育についての説明には、心と体が育つ外遊びを中心としたプログラムが実施されていること、個々の発達段階にあわせ、遊びから生きる力である非認知能力を育むこと、多様性を大切に、自己肯定感を育むこと、体験や対話から学ぶことを大切にする保育が行われているとあります。

先にも述べましたが、この事業者は親支援にも力を入れていて、発達支援アドバイザーによる親向けの学習会も積極的に行っています。子どもの困った行動は発達の過程で必要なことであり、その意味を理解することで親の情緒が安定し、子どもは安心して遊びの中から成長していける、という保育の理念を保護者と共有し親も子も支援していることに深く共感しました。

またこの事業者は、善福寺プレーパークの事務局も担っていて、広く地域に貢献していることも、覚えておきたい点です。

杉並区の担当課長も何度もこの場所を訪れていると聞きましたが、まず初めに、ここをどのように評価しているでか、伺います。

この保育を体験された保護者、近隣の方たち、ここを訪れた行政職員や一般の人たち皆がここのすばらしさを理解されていくということですが、杉並区には認可外保育施設の一時預かりに補助が出る仕組みがなく、また他のところに行けば無料で支援が受けられる障害のある子どもたちも、ここには自費で通うしかない現状があります。先ほど述べたように、少人数であっても乳幼児には大人が十分つかなければ外遊びを大切にした丁寧な保育をすることはできません。経営的に大変厳しい状況にあることは想像に難くないと思います。

区の職員の方たちは、国の制度の児童発達支援事業所になれば補助金が出ることなどの助言をされているということですが、一時預かりを必要とするいろんな子どもたちがインクルーシブで育ちあうことに大きな意味があるのに、補助を受けるために障害がある子と障害のない子が行政の縦割りに合わせて分けられることになればせっかくの宝をなくすことになってしまいます。

ここで横浜市の事例を紹介したいと思います。あるNPO法人が運営する認可外保育施設では保護者の要請に応じて障害がある子もない子も一時預かりを行っており、その実績から地域に必要な事業であるとして市に要望を行い、補助金が出るようになった話を伺いました。このNPO法人が事業を始めたきっかけは杉並区のひととき保育を視察したことだったそうで、杉並区でもぜひ補助をつけてもらってと話してくれました。横浜市に問い合わせたところ、国の子ども子育て支援交付金を活用して補助を出しているということです。年間に延べ9万人が利用していて、預ける人の負担は1時間300円とのことでした。このような制度を杉並区でもつくることはできないでしょうか、伺います。

国の交付金を利用して一定程度は補助がでたとしても、医療的ケアが必要な子どもには作業療法士と看護師のような専門職が2人も付くことから、受け入れにはそれ以上の大きな経費がかかりますから、安定してこの形態で保育を行っていくにはさらなる援助が必要です。

国は「こども誰でも通園制度」をつくることを表明し、それに応じて区でも来年度から始めようとしています。この施設を来年度試行的に実施する予定である「こども誰でも通園制度」や東京都が新たに実施する「多様な他者とのかかわりの機会の創出事業」の実施対象に加えていただきたいと思いますが、区の見解をうかがいます。

共生社会を創っていこうという先駆的な取り組みを、区が決意をもって支援し、都や国にこのような事業者を支援する制度をつくるよう提案していくことが、日本にとっての利益につながることであり、それを強く求めたいと思いますが、区の見解をうかがいます。

次にインクルーシブな教育についてうかがいます。

杉並区基本構想の3つの基本理念の一つに、「認め合い 支え合う」と掲げ、その中では「様々な価値観を互いに認め合い、支え―支えられる地域社会をつくっていくことにより、地域で暮らす人たちが、誰一人として差別されず、取り残されない社会にしていきます。『人生100年時代』を見据え、すべての区民が自らの人生を豊かに生きていくことが出来る社会を築いていきます」とうたわれています。

そのような社会を築くためには地域で顔の見える関係をつくることが必須だと考えます。障がいのある子どもが安心して地域の学校に通い、区がその子に合った学びを保障することは、杉並区特別支援教育推進計画の中にも、「すべての区立学校が合理的配慮を必要な子どもへ提供できることを目指します」と明記されています。

障がいのある子どもが安心して地域の学校を選んでいいと思える仕組みが必要だと思います。国立市では就学通知書を原則、学区の学校で障害の有無にかかわらず全員に送付することになりましたが、杉並区でも同様の取り組みができないでしょうか。このことにより、障がいのある子も地域の学校に行けるというメッセージを区が示すことができると考えますが、区の考えをうかがいます。

知的障害のある子どもが通常学級に在籍する場合、学習権を保障するためには個別指導計画をつくり、それぞれの子どもにあった学びが提供されることが必要ですが、それはどのように行われているのでしょうか。うかがいます。

その学びを保障するためには学習支援教員や通常学級支援員、介助員ボランティアの方たちの研修を行い適切に指導ができるようにすることが必要だと考えます。また周りの子どもを、大人がいなくても障害のある子のことを自然に気にかけ、支えられるようにはぐくむことも必要です。子どもは同じ場所で共に育つことで、自然に障害のある子のことを理解し、配慮出来るようになる力を持っていて、それをじゃましない大人のあり方を学ぶ研修も必要だと考えますが、それがどのように行われているかうかがいます。

通常学級支援員や介助員ボランティアは障がいのある子どもの学校生活を支える大切な存在ですが、その方たちから子どもを支援するための校内の会議に参加していないと聞きました。会議は放課後4時以降に行われることが多いのですが、支援員の方たちの勤務時間は午後3時までとなっており、会議に参加したいときは無給になるそうです。子どもと直接せっしている支援員が会議にでることは必要ではないでしょうか、見解をうかがいます。

⑤これまでも作業療法士が教室に入り、じっとしていられない子の様子を見て、その子が落ちつく方法を先生に伝え、先生がその方法を取り入れることで、その子は教室にいやすくなるということを度々議会で取り上げてきました。杉並区では発達に課題がある子どものために、学校に来て子どもの環境を改善する手伝いをしてほしいと保護者が要請すれば、作業療法士ではないが、臨床心理士の方などが来てくれてケアの方法を先生に伝え、その費用は杉並区が払うという学齢期発達支援事業の学校連携という仕組みがあります。学校ではどのくらいこの仕組みが活用されているでしょうか。もし使われていない場合は、学校が保護者にこの仕組みを周知し、子どもの環境の改善を図ることも積極的に勧めていただきたいと思います。それがひいてはすべての子どもにとって居心地のいい教室づくりにつながると思いますが、区の考えをうかがいます。

「みんなの学校」というドキュメンタリー映画の上映会が杉並区でも頻繁に開催されていましたが、この映画の舞台となった大阪市にある公立小学校では、特別支援学級を解体し、障害のある子も通常学級に席を置き、教室に先生が複数体制で入ることで、障害のある子も地域の学校に通う、フルインクルーシブに近い環境をつくっています。このように杉並区でもすべての学校に特別支援学級を配置することにして教師を加配し、実際にはそこを解体して教師が複数で教室運営を行い、通常学級にいる障がいのある子の支援をするという形をとることが将来的に目指す形ではないかと考えますが、区の見解をうかがいます。

現在、特別支援学級がある学校では、どれぐらいの頻度で共同学習などを行っているかうかがいます。これも顔の見える関係を築くのに重要なことと考えます。

⑦先日、東京生活者ネットワークで、障害者権利条約における障害児者の権利の展開や日本におけるインクルーシブ教育実現に取り組んでいる東洋大学客員研究員の一木玲子さんを招き「フルインクルーシブ教育へのロードマップ」をテーマとした学習会を行いました。そこで一木さんが言っていたのは、大きな災害が起こって地域の体育館に避難をするとき、その回りに知り合いがいない障害者家族は子どもが声を出してしまったり、じっとしていられないことから避難所へ行くことをあきらめざるを得ない状況があることをうかがいました。一方地域の学校に通っていたから災害時に「歩けない○○ちゃんを助けに行こう」と皆が思い出したという話もしてくれました。学校で共に学び、子どもたちがその子を知っていれば、避難所にいけます。こういうことからも、インクルーシブ教育の必要性を認識したところですが、区教委の考えを伺います。

先日済美養護学校を視察させていただきました。そこでは一人一人に対応した学習が行われ、校舎の廊下のいたるところに大きな絵本が置かれていて、子どもたちが好きに手に取れるようになっていました。廊下の壁には子どもたちの作品が飾られ、楽しい雰囲気に満ちていました。「自他を認め、社会の中で生きる力と生きる喜びを育む」という教育目標をかかげ、毎日通いたくなる学校を目指しているという校長先生の話を伺い、それが実現されているところに感銘を受けました。不登校の子どもが900人もいる杉並区にあって、ここでの不登校はゼロで、子どもたちが楽しく学べる環境を作っていて、他の学校にもぜひそのノウハウを広げてほしいと思いました。済美養護学校は特別支援教育推進計画でもセンター校の役割を担っていることが示されていますが、どのような取り組みが行われ、どのようなノウハウが他の学校に提供され、研修などに生かされているのか、最後にうかがいます。

区議会の中でも、発達障害を持つ子どもの特別支援学級設置を求める保護者の声を受け、質疑が行われています。今の通常学級で、我が子の自己肯定感が低くなることを心配する保護者の方たちの気持ちは私も理解するところです。しかし、私が目指すべきと述べているインクルーシブ教育は、同じ教室の中にいながら、それぞれの特性に合わせた教育が行われること、互いの違いを認め合うことを目指すものです。私はインクルーシブ教育をもっとすすめるべきと考えていますがセイビ養護で行われている取り組みを否定するわけではありません。むしろこのような教育が全ての学校で実践されればどんなにいいか、そうすれば養護学校は必要なくなるのではと考えます。済美養護の教育がすべての学校にひろがるときは杉並でインクルーシブ教育が実現したときだと思います。それはすべての子どもにとって心地よい、不登校の子どもも発生しにくい、やさしい教室です。そのことを申し添え、私の一般質問を終わります。

 

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