第2回定例会一般質問 奥田雅子  2022.5.25

いのち・平和クラブの一員として通告に従い、ケアラー支援について質問します。

私は、この間、ケアラー支援について何度か取り上げてきましたが、改めてケアラーとは何か確認すると、日本ケアラー連盟の定義では、ケアラーとはこころやからだに不調のある人の「介護」「看病」「療育」「世話」「気遣い」など、ケアの必要な家族や近親者、友人、知人などを無償でケアする人のこととなっています。現在の日本の介護者の約7割は家族が担っている状況です。

昨今では、ヤングケアラーという言葉がメディアでも頻繁に取り上げられ、注目を集めていますが、ヤングケアラーに限らず、少子高齢社会はすすみ、家族形態の変化、共働き世帯の増加、貧困格差の拡大、地域コミュニティのつながりの希薄化などから、ケアラー自身は心身の健康を損ねていたり、経済的に苦しんでいたり、精神的に追い詰められていたり、孤独を感じ、社会的に孤立していたり、理解と支援を求めていたりといった厳しい状況にあります。ケアラー支援がないと社会に様々な深刻な問題が生じると言われています。例えば、医療費や介護費用の増加、労働力不足、税や社会保険料負担者の減少、少子化のさらなる進行など、社会活力の低下は計り知れません。また、ヤングケアラーに至っては進学ができない、望む仕事に就けない、人生の見通しが持てない、将来に不安を抱えた子どもや若者が増えるなど、健やかな成長を保障できず、社会的にもその損失は大きいものとなります。

私が2018の一般質問でケアラー支援について取り上げた際、区は高齢者から障害者、子ども分野などで介護者支援について幅広く議論を深めていく必要があるとの認識を示されました。また、この間、厚労省が文科省と連携してヤングケアラー実態調査を行い、その結果から、ヤングケアラー支援に対する対策が打ち出され、集中的な取組が加速しています。区でもヤングケアラーについての理解を深め、共通認識のもと今後の対応について取り組むと今年の予算特別委員会でも答弁を受けたところです。

ケアが必要な人のための法制度は介護保険法をはじめ高齢者虐待防止法、障害者総合支援法などありますが、ケアラーを支援する法制度はありません。介護保険制度は「介護の社会化」として、画期的でありましたが、基本的に要介護者を対象としています。家族介護者支援事業も介護者交流会や介護用品支給など「介護しやすくする」ための支援にとどまっており、ケアラーの生活や人生を支援するという目的はこれまでは、どこにも明記されてきませんでした。しかし、2018年3月に厚労省が策定した「市町村・地域包括支援センターによる 家族介護者支援マニュアル」の副題に「介護者本人の人生の支援」が入り、画期的であったため、同年の一般質問でも取り上げました。マニュアル策定間もない時でもありましたが、区も介護者の望む人生を支援するという視点は重要との認識を示し、その具体化が新たな課題だとの答弁でした。

そこで、伺います。

①このマニュアルにある具体的な取組手法や事例が参考になるとともに、現在の区のケアラー支援となる事業の検証や不足している部分などの課題の抽出にもこのマニュアルは有効だと考えます。市区町村介護行政及び地域包括支援センターの担当者向けに作成されたこのマニュアルを区はどのように活用したのか、その活用状況について伺います。

②このマニュアルに示されている「相談・支援フロー」を機能させることが最初の入り口としてとても重要だと考えています。ステップ1から4まであり、ステップ1が初期相談・相談受付で、まずはケアラー自身が自己チェックすることで、自分が置かれている状況を自身が客観的に把握します。ステップ2で専門職等のアセスメントの実施により、緊急性や深刻度の判断や学業や生活と介護・ケアの状況把握を行うスクリーニングをし、ステップ3で、課題を明確化し、利用できるサービス、社会資源の活用方法、連携方法を検討し、支援方法を決定する、ステップ4で関係機関、地域の支援ネットワークへつないだり、サービスや支援提供の調整、予防的視点からの関与・対応・支援をする、というように、ステップ1から4までを機能させることで、ケアラー支援が適切に組み立てられると思うのですが、区の認識はどうか、伺います。

生活者ネットワークでは2020年11~12月にケアラー調査を、2021年10~11月に社会資源調査を実施しました。ケアラー調査では都内23の事例から様々な課題が浮き彫りとなり、ケアラーの実態が見えてきました。多くの場合、自治体のサービスを利用しているものの、それだけでは十分ではない心の叫びとも言える声をたくさん聞くことができました。この調査を通して、ケアラー支援は家族全体を見る必要があることを改めて確認することとなりました。

介護保険事業計画策定時には高齢者の実態調査が行われ、介護者の状況について聞く設問もありますが、介護者が主体ではありません。生活者ネットワークが行ったケアラー調査はケアラー本人を主人公とする調査であり、たっぷりと時間をかけて対面でヒアリングをしたことで、より具体的な実態が分かりました。ケア対象も高齢者だけでなく、病気、障がいのある家族、さらに、ヤングケアやダブルケアなど多様化、複合化していることも確認できました。一律の制度だけではカバーしきれない課題、分野横断的に取り組まなくてはならない理由がここにあると思っています。

また、介護が一部の限られた家族に負担が行くことで、その人が倒れたら介護そのものが行き詰まるという不安と恐怖を抱きながら暮らしていることが多くのケアラー当事者の共通している悩みでした。冒頭で述べたように、ケアラーが置かれている状況を改善していくためには、ケアは家族がメインであって、介護サービスがそれを助けるものという発想から、ケアの社会化を基軸に家族はあくまでサポート的役割という仕組みでないと、少子化核家族化、超高齢社会での生活は成り立たなくなるのではないか、私はそこを大変心配しています。そして、ケアされる人もケアする人も人としての尊厳が守られ幸せな人生を送れるよう、ケアラー支援を総括的に法で定めるため、ケアラー支援法やケアラー支援条例の検討を課題としてとらえる必要があると考えています。

ここで、調査を通してケアラー自身から発せられたニーズの中からいくつか提案したいと思います。

③まず、レスパイトケアとしてショートステイサービスがありますが、それに助けられたというケースもある一方で、条件に合わず使いにくい、経済的な負担になるなどの課題も指摘されました。緊急ショートステイは対象となる条件があるため、ケアラーの休息という使い方とは少し違うようにも思います。ケアラーがゆったりと休息できるという視点からミドルステイや要件を緩和して、使いやすくしていくことも必要ではないかと思いますが、区の見解を伺います。

④杉並区には「ほっと一息 介護者ヘルプ」のサービスがありますが、利用できるのは年間最大24時間分です。良い制度なので、私はご家族を介護している方には利用をすすめていますが、この間の実績では対象となる約2000世帯に対して、実際に利用しているのは約700世帯で月平均2時間の利用と伺いました。ケアラー支援の観点からするともっと多くのケアラーに利用してほしいので制度の周知を徹底すること、利用できる上限枠も拡充してほしいと考えますが区の見解を伺います。

⑤区の介護者支援である「ほっと一息、介護者ヘルプ」や「認知症高齢者家族やすらぎ支援」「介護者の心の相談」は良いしくみだと評価していますが、やはり利用者が少ないのが残念に思います。もっと周知していくことと同時に、利用者あるいは未利用者からのアンケートを実施する等して、課題があれば見直すことも必要ではないでしょうか。区の見解を伺います。

*私どもが調査したケアラーからは子育て応援券のように、体のメンテナンスのために整体院や健康診断、リフレッシュのための体操やヨガなどで使えるケアラー応援券があったらよいとか、睡眠不足や腰痛、精神的不安などケアラー特有の健康状態をチェックしたり相談できる区民検診があったらよいという声がありました。当事者ならではの発想だと思いましたので、今後の検討を要望しておきます。

次にヤングケアラー支援についていくつか伺います。

厚労省は2020年度の中2および高2を対象にしたヤングケアラー調査に続き、2021年12月には全国大学3年生及び20歳以上の一般男女を対象に、さらに2022年1月には小学6年生および公立小学校350校程度の教員に対して、ヤングケアラー調査を行いました。世話をしている家族が「いる」と答えたのは小学6年生が6.5%、中学2年生が5.7%、高校2年生が4.1%、大学3年生が6.2%という結果でした。その関係性では兄弟・姉妹や父母が多く、中学生以上では祖父母も少なくありませんでした。厚労省はおつかいやきょうだいの遊び相手など、お手伝いの範囲内で家族の世話をしている子どもも含まれているだろうとしつつも、小学生にも一定数のケアラーがいることが明らかとなりました。

⑥区はこの結果をどのように受け止めましたか。中学生に引き続き、区内小学校で対象になった学校はあったのか、お聞きします。

今年の2月にヤングケアラー当事者だった経験からヤングケアラーを支援する団体を立ち上げ活動している宮崎成悟さんのお話を聞く機会がありました。改めて高齢者介護の枠だけに収まらないヤングケアラーの厳しい現実を知りました。特に、行政の調査の項目は高齢者の家族の介護の視点からの設問が多いため、例えば、統合失調症やうつ病、高次脳機能障害の親のケアや障がいのあるきょうだいのケアなどは見過ごされがちだということでした。

昔も、介護を担う子ども・若者は存在していました。下の子の面倒をみたり、家族の手伝いをするのは当たり前でした。それは今も変わってはいないと思いますが、現在は家族の孤立化、人口構造、家族形態の変化があり、核家族化、専業主婦の減などにより、子どもがケア者としてあてにされ、過重なケアやそれに伴う責任までも負わされている現実があります。サポートの必要な、孤立したヤングケアラーが増えてきたということだと思います。

⑦厚労省の調査でも「相談したことがない」との回答が5~6割あり、特に「学校の先生、スクールソーシャルワーカーなど、本来相談すべき相手に相談していない」という回答には学校関係者も受け止めなければならないと思います。 他にも「誰かに相談するほどの悩みではない」「相談しても状況が変わるとは思えない」との回答が多いということを認識しておく必要があり、それを前提にした対策を立てることが必要だと考えますが、区の認識、見解を伺います。

⑧国は、ヤングケアラーの実態調査や、福祉・介護・医療・教育等の関係機関職員がヤングケアラーについて学ぶための研修を実施する地方自治体への財政支援のほか、関係機関と民間支援団体等とのパイプ役となる「ヤングケアラー・コーディネーター」の配置、ピアサポート等を行う団体への支援、ヤングケアラー同士が悩みや経験を共有し合うオンラインサロンの設置運営・支援等への財政支援など、ヤングケアラー支援体制の強化に向けて様々、予算化を行っています。どれも今後必要となるしくみであります。

区は、この予算を有効に活用すべきと思いますが、いかがか伺います。

⑨今年2月に厚労省の子ども・子育て支援推進調査研究事業として「多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル」が策定されました。学校関係者や保健・福祉・医療分野の方、地域の方、ヤングケアラー当事者やその家族向けが一つにまとまったマニュアルとなっています。各関係機関との共有をしてほしいと考えますが、このマニュアルの活用について区の見解を伺います。

⑩ヤングケアラーはやがて18歳以上となり若者ケアラーと年代も移っていきます。そのため、その時々の支援にきちんとつながるということが重要であり、その最初の入り口である相談にいかにつなげるか、つながるかだと思います。周りの大人や同級生、地域の人の理解もそうですが、ヤングケアラー自身が「人に知られたくない」と感じることなく、「辛い!助けて!」と発信していいんだと思えるようなしくみをつくっていかなくてはならないと思います。例えば夜間等にも対応できるLINE相談や相談支援機関に元ヤングケアラーを配置する、介護と学業や就業の両立をプランニングできるコーディネーターを育成・配置する等の検討も必要ではないでしょうか。そして、その検討の場にはヤングケアラー経験者にも参加してもらい、一緒に考えることが重要だと思います。庁内組織を超えて、連携して具体的に動く時だと考えますが、区の見解を伺います。

ここ1~2年の間に国がヤングケアラー支援策をにわかに進め出した感がありますが、そのきっかけは埼玉県が行ったヤングケアラー実態調査だったと思います。埼玉県では国に先んじて調査を行い、ケアラー支援条例を制定して実行計画を策定、取り組みを進めています。これにならって北海道や三重県、岡山県などの地方都市で条例の制定が広がっており、生活者ネットワークのケアラー調査も、都内各自治体でのケアラー支援条例づくりを目標とした活動の一環でした。条例を定めることで、区の施策体系の中でバラバラにある支援メニューをまとめ、ケアラー支援という大きな目的のもとに実行計画が立てやすくなり、きめの細かい施策が可能になると私たちは考えています。

高齢社会はだれもがケアラーになりうる時代です。介護に行き詰って悲惨な事件を起こしたり、人生の希望を失ったりするケアラーが一人もいない自治体とするため、杉並区でもケアラー支援条例の検討がされることを求め、私の一般質問を終わります。

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