区議会生活者ネットワークを代表して、2024年度杉並区一般会計予算並びに各特別会計予算及び関連諸議案について意見を述べます。
一昨年2月から始まったロシア・ウクライナ戦争は2年たった現在も出口が見えず、昨年10月からはパレスチナ・イスラエル戦争が始まり、世界では軍事的緊張が高まり、エネルギーの高騰などが市民生活に大きな影響を与えています。
国内に目を向けると、国会議員の裏金問題が明るみに出たにもかかわらず、説明責任を果たさない態度に国民の政治不信は頂点に達しています。誰のための政治なのか、自らの保身と利権にまみれた現政権への国民の批判の声は高まるばかりです。
元日に発生した能登半島地震は新型コロナウイルスの5類移行後初めてのお正月で、家族が集まるおめでたい日が激震と悲しみの空気へと一変しました。石川県志賀町(しかまち)にある志賀原発は稼働停止中だったため大事には至らなかったものの、変圧器などが壊れる被害があり、この地震列島に原発はあってはならないと改めて再認識することとなりました。
格差が拡大し若者が将来に希望を持てない社会は加速度的に少子化を進め、社会保険料の負担増、社会保障への不安、円安にインフレと区民生活に大きな影響を与えています。
こうした先の見えない不安定な社会状況の中、私ども生活者ネットワークは、住民に一番身近な基礎自治体の役割である区民福祉をいかに支え向上させるか、物価上昇に賃上げが追い付かない状況や昨今の気候危機から区民の命と財産を守り、子どもたちが将来に希望を持てる予算となっているか、住民自治の視点が大切にされているかに注目しました。
基本構想に基づく総合計画実行計画が前倒しして改正され、2024年度はそれに基づき編成された予算に対し、区政経営計画書の主要事業の概要に沿って主な課題について、予算特別委員会の質疑を踏まえて以下意見を述べます。
まず初めに、区財政と区政運営についてです。
一般会計は2228億9200万円で、対前年度比121億9200万円、5.8%増となりました。
建設、物流・運送、医療業界における「時間外労働の上限規制」を発端とする2024年問題は特に建設業界における週休2日制の本格導入や円安による輸入資材の高騰が工事費や工事期間に影響を与えること、また、デジタル化推進関連経費の増は注視すべき点です。さらに、ふるさと納税制度や国による税源偏在是正措置の影響による大きな減収が歳入における課題となっています。そんな中、当該年度は1年前倒しで改定した総合計画を踏まえた実行計画1年目であり、参加型予算、気候区民会議、子どもの権利条例制定に向けた動き等、新たな取組に期待するところです。また、重層的・包括的な支援体制強化、防災減災対策、水害対策としてのグリーンインフラの推進は喫緊の課題に対応する施策として評価するものです。
「財政健全化と持続可能な財政運営を確保するための基本的な考え方」が再整理され、財政調整基金の年度末残高をこれまでの350億円から450億円の維持に変更することで、大規模災害や経済事情の著しい変動等による減収への備えを強化したことや老朽化が進んでいる区役所本庁舎の建替えを見据えた(仮称)本庁舎改築基金の早期設置が示され、引き続き健全な財政運営の実現に取り組むよう求めるところです。
第2に、区民生活についてです。
➢防災・減災対策は自助・共助・公助の範囲を明確にすることが必要です。区では備蓄品や防災資機材の充実、震災救援所での安全・安心の避難生活のための対策も進みハード面ではすすんでいますが、一方で防災意識の高揚は様々な角度から働きかけていくことが重要です。近隣との付き合いが希薄化する現代においては、地域のつながりづくりを平時から働きかける仕組みも必要であり、いざという時を念頭においた自助・共助が機能するよう取組を進めることを要望します。
➢農地の多面的な機能には様々ありますが、防災面での役割も大変大きいと考えます。井戸やハウス、生産物、土地活用など、いざという時の農業者との連携協力の可能性を検討していただくよう要望します。また、区内の南側には区民から求められている体験農園がないため、後継者がいない農家から区が圃場を借りて、これまで成田西ふれあい農業公園で8年にわたり農業体験を区民に提供していたNPO法人の経験などを活かし、体験農園の運営委託を検討いただくよう要望します。
➢外国人住民が増える状況の中、2023年1月からボランティアによる子ども日本語教室がスタートしました。2024年度には多文化キッズサロンの開設の検討が計画化され、多様性が受け入れられる多文化共生基本方針をつくることが示されたことを歓迎します。策定に当たっては当事者も含めた懇談の場が持たれることが示されましたが、その場に公募区民を加えること、また、外国人コミュニティに意見を聞きに行くなど多くの声が策定に反映されることを要望します。
➢あらゆる施策にジェンダーの視点を取り入れたジェンダー主流化を意識して進めていただくことを要望します。
➢公民連携プラットホームの活用推進のために2023年度新たに開設されたWEBサイト「すぎなみプラス」は順調な運用がなされ、新たな市民事業の芽も集まってきていると認識しています。市民自らが地域の課題解決に取り組む市民自治の拡大に寄与するものと期待しています。
第3に、保健福祉についてです。
➢災害時要配慮者を支える側の拡大が課題です。個別避難支援プランは作って終わりではなく、プランをもとにした日ごろからの訓練を通して実効性のある地域のたすけあいネットワークづくりを強化するよう求めます。
➢重層的支援体制整備事業が新年度からスタートします。質疑を通して、庁内9課で検討組織を立ち上げて12回の会議の開催を質疑を通して確認し、丁寧に議論が進んでいることがわかりました。区の創意工夫が問われる事業です。地域福祉コーディネーターをはじめ様々な公的機関、民間事業者、地域住民も巻き込みながら、安心のセーフティネットとなるよう取り組んでいただくことを要望します。
➢介護保険事業者支援では主任ケアマネ、ケアマネの研修受講料の助成が予算化されたことは評価できますが、新年度からの介護報酬について全体では1.59%アップすることが決まりましたが、詳細を見ると訪問介護の基本報酬は引き下げられます。高齢になっても住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるためには訪問介護事業所のヘルパーは重要な存在です。現実から乖離した改定は地域に根差した訪問介護事業所を撤退に追い込むのではないかと懸念しています。区としても現実をしっかり見て必要な支援を検討していただくよう要望します。
HPVワクチンの男子への接種について、自治体が補助を出す場合、東京都がその2分の1の補助を出すことになったことから、他自治体でもその動きが加速化しています。しかし、予防効果があるとされる肛門がんは非常にまれながんで出現率は10万人当たり約1名です。それに比べて副反応の出現率は10万人あたり100人であり、明らかにリスクとベネフィットのバランスを欠いています。しかも肛門がんの発症は多くが60代以上であり、10代で接種するワクチンの効果が40年以上続くことはまったく未知です。他自治体が実施するからというのではなく、科学的事実に基づく慎重な判断を求めます。
新型コロナワクチンについては、2023年10月29日までの累計で2170人の副反応疑いによる死亡が報告されています。大変な数であるにも関わらず、それに見合う報道はありません。区内でも副反応疑い報告は83名、その内死亡が8名いるのは事実です。質疑を通して、すでに5類になった後に17歳の子ども2人の副反応報告が増えていることがわかり、深刻な被害が出ていることは明らかです。このような被害状況を区として情報提供することを改めて求めます。
障害者差別解消法の改正によって2024年4月から、民間事業者に対しても、障害者への合理的配慮が義務化されます。その啓発活動を障がい当時者や支援者による「共生社会しかけ隊」が担い、日ごろから関りのある地域の様々な場所に出向き、話し合うことが促進されるために、しかけ隊が活動しやすい環境を整えることを求めます。
第4に、子ども家庭支援についてです。
・杉並区子どもの権利擁護に関する審議会がもたれ、様々な背景を持った子どもたちの声をていねいに聴く取り組みが行われています。そのこと自体が子どもの意見表明権を体現していると評価しています。この条例づくりがきっかけとなり、区民の間でも子どもの権利を学ぶ機会が広がっており、杉並らしい条例ができることを期待しています。
➢ライフスタイルや価値観が多様化する中、子どもの過ごし方も様々であり、子どもの居場所も児童館だけでない多様な居場所が必要とされています。2024年度は(仮称)子どもの居場所づくり基本方針が策定されますが、平行して行われる出前児童館や庁舎内の乳幼児親子の居場所の取組みも参考にしながら、当事者である子どもや保護者、地域の方々が共に策定に関われる工夫をお願いします。
保育について、区は2016年5月、保育緊急事態宣言を出し、認可保育園の拡大により、7年連続で待機児ゼロを達成し続けると共に質の確保にも取り組んできました。質疑を通して区立保育園27園の存置を確認しました。また一般質問でも求めたところですが、障害がある子もない子も多様な子どもが共に過ごせるインクルーシブな保育を実践している保育施設の持続可能な運営に向けた区の支援を要望します。
区立児童相談所設置に向けて、人材確保とともに、要支援家庭を対象としたショートステイ事業を始め、養育支援訪問事業、子育て世帯訪問支援事業などの包括的な支援の充実が図られていることを評価しています。新年度には新たに子どもイブニングステイ事業、ふるさと納税を活用した児童養護施設退所者などの自立支援を行うことに期待しています。
第5に、都市整備についてです。
➢善福寺川上流調節池は東京都の事業ではありますが、住民の不安や疑問が払拭されるよう区には心を砕いていただくよう要望するとともに、総合的な治水対策のひとつとしてグリーンインフラの推進を加速していただくことを要望します。
阿佐ヶ谷北東地区のまちづくりについては、いったん立ち止まり8月から振り返る会や様々な対話の場が持たれ、最終的な結論はこれまで通りに進めることが区長から示されましたが、その間、情報公開が進み、これまで事業に疑問を持っていた人たちの意見を区が受け止め、お互いの理解が深まるよう尽力したことは重要です。今後も透明性の高い参加型のプロセスで杉1小の移転改築と跡地活用について進めていただくこと要望します。
➢住まいは人権、どんな状況にあっても安定的な住まいの確保は誰にも等しく保障されなくてはなりません。2024年度には家賃助成制度創設に向けて検討されることは重要です。当事者の声を聴いて制度設計に活かしていただくことを要望します。
第6に、環境施策についてです。
庁内に区長をトップとした気候危機対策推進本部が立ち上がり、部門を超えた連携が図られていることを歓迎します。マイボトル対応の給水器の拡充が行われますが、今後区役所本庁舎の各フロアに設置することも要望します。
容器包装プラスチックと製品プラスチックの一括回収のモデル実施が計画され、その後の本格実施に期待します。
気候区民会議が6回開催されますが、有識者からの知見を参加者だけでなく広く区民と共有し、多くの区民が関心を持って気候危機を自分事としてとらえ、行動に移す区民が増えることを期待しています。
第7に、教育についてです。
すべての人が互いを認め合う共生社会をつくるためには、子どものころから障害のあるなしに関わらず共に学ぶインクルーシブ教育の推進が重要だと考えます。東京都ではこれまで特別支援学校が適当とされた子どもが地域の学校で学ぶことを希望した場合にインクルーシブ教育支援員を配置するための予算案を示しました。これを機に当事者親子がより地域の学校を選びやすくなるための取り組みを進めていただくよう要望します。
不登校児童生徒が過去最多の897人となっています。校内別室居場所や仮想空間で子どもがアバターとして参加するバーチャルラーニングプラットホームのとりくみ、またスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの増員など支援の充実が図られることを評価します。保護者同士の情報交換やピアカウンセリングにもなる親の会を教育委員会が主催することについては引き続き要望いたします。
給食費無償化について、国公私立学校に通う子どもと共に、不登校の子どもに対しても負担軽減を図るために給付を行うことを高く評価します。無償化にあたっても、これまで守ってきたできる限り国産食材を使うこと、遺伝子組み換えやゲノム編集食品をつかわないことを継続するよう要望します。
以上申し上げ、2024年度一般会計予算及び各特別会計予算について賛成いたします。
次に予算関連議案について意見を述べます。
➢議案第14号杉並区介護保険条例の一部を改正する条例については、第9期の介護保険料算定に向けて、低所得者の負担割合の見直し及び高所得者の保険料段階の多段階化がなされ、さらには介護保険給付費準備基金を約32億1200万円取り崩すことにより、据え置きとはならなかったものの、保険料の上昇を基準月額で200円にとどめることができました。また、国の保険料段階2および4~13段階の負担割合よりも区は下回っていることも確認しました。介護が必要となった人にきちんとサービスが届くよう、介護現場への支援とともに取り組んでいただくことを求め議案には賛成します。
その他、9議案にも賛成いたします。
結びに当たり、資料作成に御尽力いただいた職員の皆様に感謝を申し上げ、区議会生活者ネットワークの意見開陳といたします。